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眠い、足が重い、月霜はずっとそんな事を思いながら走り続けた。
「足が痛い……」
「我慢して下さい」
月霜は両目に涙を一杯溜めた。
午前は訳の分からない所に連れて行かれ、やっと帰れたと思えば眠っている最中に叩き起こされて出ていけと言われる。
どうして私がこんな目にと、月霜は事の理不尽さに泣きそうになった。
ぐずり始める月霜を見て、乳母はいくらか口調を和らげる。
「もう少しの我慢です。月霜様。外に出たら休憩しましょう。泣かないで下さい」
でも……と月霜は駄々を捏ねかけたが、乳母の真剣な表情を見て口を噤んだ。
唯一頼れる乳母に見捨てられるのが怖かったのだ。
王宮は広い。
その上、兵士達の目を避けなければならない。
逃げて隠れてまた逃げる。
二人が外に出られたのは明け方だった。
賑やかな大通りを避けて、二人は山道を歩く。
月霜は、休みましょうかという言葉が乳母の口から出てくるのを今か今かと待っていた。
山道になってから、月霜の足は限界を迎えたのだ。
「……そろそろ、休みましょうか」
見兼ねた様に乳母が呟く。
月霜の表情はぱっと明るくなった。
近くの岩の上に座り、足を見る。
月霜の履いてきた刺繍入りの布靴は泥まみれで、底も大分擦り減っていた。
滑らかな白い石を詰めて敷いた王宮の道を歩くのならば、綺麗な布靴でも良いが、山道ではそうはいかない。
布靴は、鋭利な岩場では何ら役に立たなかった。
「瑶悧は酷いわ。私を三水宮から追い出すなんて」
乳母にその不満をぶつける。
乳母は不安気に辺りをきょろきょろ見渡していたが、月霜のその言葉を聞いて悲しそうな顔をした。
「瑶悧様の事をそんな風に言わないで下さい。瑶悧様がこうしたのも月霜様の為ですから」
月霜が皇后を殺した罪で、明日に殺されるという知らせが入った時、真っ先に月霜を救おうと動いたのが瑶悧だった。
瑶悧は月霜には厳しいが、誰よりも月霜のことを考えているのを侍女達は皆知っていた。
逃げ道を準備し、高価な物を詰め込んだ布袋を用意し、わざと悪役を買って、王宮から出るのを渋る月霜を送り出したのだ。
いくら月霜がその事を知らないとは言え、瑶悧の事を悪く言うのを乳母は何としてやめさせたかった。
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