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「月霜様、まだ歩けそうにありませんか?」
月霜は小さく頷く。
兵が追ってきている頃だろうと乳母は辺りを見渡す。
まだ姿は見えないが、安心は出来なかった。
そんな乳母を他所に、月霜は乳母の隣にやってきた。
じっと乳母を見つめて聞く。
「ねえ、どうして私と一緒に王宮から出たの?追い出されたのは私だけだよね?」
月霜は不安だった。
乳母が自分を一人にして王宮に戻ってしまうのが怖かった。
「王宮に、戻ったりするの……?」
不安そうに、そっと乳母の顔色を窺う月霜を、乳母は不憫に思ったからか、抱き寄せて軽く背中を摩った。
「王宮には戻りません。ですので、安心して下さい」
乳母の言葉にほっとしたが、月霜はぎゅっと乳母にしがみついたまま離れなかった。
亡き皇后は月霜に対してたっぷりと愛情を注いだ。
その為、月霜は好奇心旺盛で、天真爛漫な子に育った。
いたずら好きの月霜に頭を抱える侍女も多かったが、その姿も微笑ましいものである。
だから昨日、無邪気な笑顔の代わりに不安そうな、恐怖に満ちた表情で泣きながら王宮に戻って来た月霜を見て、乳母も侍女達も驚いた。
それから一刻もしない内に言い渡された死罪。
乳母も侍女達も信じられなかった。
母を亡くした矢先に罪を着せられて殺される。
乳母はそんな月霜が気の毒で仕方がなかった。
「私が月霜様と一緒に王宮から出たのは、月霜様には笑顔で生きて欲しいと思っているからですよ」
そう言って乳母は月霜の頭を軽く撫でるが、月霜は何の事か分からない様にきょとんとしていた。
乳母は微笑む。
「それに、私の命は皇后様に拾ってもらえた物です。皇后様の為に使えなかったのは無念ですが、月霜様の為に使いましょう」
月霜はやはり意味が理解出来なかった。
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