第三話 根拠のないガーナの勘とライラの願い 

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* * * 「そうですね。少しだけならそういったことを忘れても――。って、いません!?」  横で歩いていたガーナはいない。  慌てて周りを見渡す。 「ガーナちゃん!!」  見つけた。  人の間を器用に通り抜けて、大荷物を両腕で抱きしめたまま、全速力で駆けていく姿が見えた。  時々、苦しそうに身体を左右に揺らし、倒れそうになりながらも駆けていく。  なにかを追いかけているようにも見える。  なにか得体の知れない力に引き寄せられているようにも見える。  ……身体強化魔法を――。いえ。その魔法は使えなくなったと言っていたはずです。  身体機能を格段に上げることだけを目的とした魔法がある。  それは属性別に分けられた魔法ではなく、魔力がある者ならば誰もが使えるように作られた【創作魔法(オリジナル・マジック)】と呼ばれる新しい魔法の一つだ。  ……まさか、魔法を使わずに?  ガーナは運動能力に恵まれていた。  国内の大会出場を目指す運動部からは、毎年のように入部の勧誘を受けているほどだ。  ……でも、そんなことはありえないのです。 「ガーナちゃん!!」  空想に深けていたライラであったが、慌てて、走ろうと地面を蹴り上げる。  ぼんやりとしている暇ではない。  少しの時間でも、ガーナを見失ってしまうのには充分な時間になる。 「ガーナちゃん!! なにをしているのですか!?」  ライラの悲痛の叫びを耳にした少年少女たちが肩を揺らす。  幾ら温厚とはいえ、ライラは隣国の王女だ。  逆らえば、磔にされたところで文句は言えない。  帝国では、皇族の癇に触れた者は生きていけない。  身についている恐怖に怯えているのだろう。 「いきなりの行動は止めて下さいと、何度も言っているでしょう!?」  恐怖から逃げるかのように、少年少女たちは慌てて立ち去っていく。  人込みの中に隠れて行ったガーナの姿が見えた。  長い青色の髪が視界に映る。  一心不乱に走っていく。周りが見えていないのだろう。
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