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「そうですね。少しだけならそういったことを忘れても――。って、いません!?」
横で歩いていたガーナはいない。
慌てて周りを見渡す。
「ガーナちゃん!!」
見つけた。
人の間を器用に通り抜けて、大荷物を両腕で抱きしめたまま、全速力で駆けていく姿が見えた。
時々、苦しそうに身体を左右に揺らし、倒れそうになりながらも駆けていく。
なにかを追いかけているようにも見える。
なにか得体の知れない力に引き寄せられているようにも見える。
……身体強化魔法を――。いえ。その魔法は使えなくなったと言っていたはずです。
身体機能を格段に上げることだけを目的とした魔法がある。
それは属性別に分けられた魔法ではなく、魔力がある者ならば誰もが使えるように作られた【創作魔法】と呼ばれる新しい魔法の一つだ。
……まさか、魔法を使わずに?
ガーナは運動能力に恵まれていた。
国内の大会出場を目指す運動部からは、毎年のように入部の勧誘を受けているほどだ。
……でも、そんなことはありえないのです。
「ガーナちゃん!!」
空想に深けていたライラであったが、慌てて、走ろうと地面を蹴り上げる。
ぼんやりとしている暇ではない。
少しの時間でも、ガーナを見失ってしまうのには充分な時間になる。
「ガーナちゃん!! なにをしているのですか!?」
ライラの悲痛の叫びを耳にした少年少女たちが肩を揺らす。
幾ら温厚とはいえ、ライラは隣国の王女だ。
逆らえば、磔にされたところで文句は言えない。
帝国では、皇族の癇に触れた者は生きていけない。
身についている恐怖に怯えているのだろう。
「いきなりの行動は止めて下さいと、何度も言っているでしょう!?」
恐怖から逃げるかのように、少年少女たちは慌てて立ち去っていく。
人込みの中に隠れて行ったガーナの姿が見えた。
長い青色の髪が視界に映る。
一心不乱に走っていく。周りが見えていないのだろう。
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