第一話 裏切り聖女の独白

1/10
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

第一話 裏切り聖女の独白

 少女、ガーナ・ヴァーケルの故郷は凍り付いた森に囲まれている田舎にある。  フリアグネット魔法学園の長期休みを利用して故郷に戻っていたガーナは自室の整理整頓をしていた。 「これで全部かな」  その日暮らしの田舎生活をしていたとはいえ、ガーナの自室には物が溢れている。  その多くは首都で暮らしている兄から貰った物であり、兄を恐れる両親が金銭価値を理解していながらも手を出さなかった為、部屋に取り残されたのだろう。 「……あれ?」  立て付けの悪い本棚の奥に隠されていた古びた本を手に取る。 「こんな本、あったかなー?」  題名は掠れてしまっており読めない。  中を見てみるが、現代では使われない古代語で書かれているようだ。 「兄さんの忘れ物かな?」  ガーナが帰省する時期に合わせて帰ってきていた兄は先に出発をしている。  仕事柄、長期休みは貰えないのだと笑っていた兄を思い出す。  ……古代語の予習に役立つかも。  本棚に戻そうとしていた手が止まる。  首都ヴァーミリオンに行く機会があれば会うこともあるだろう。  その時に本を返せばいいのではないかという誘惑が頭を過り、無意識のうちに本を荷物の中にいれていた。  ……リンなら読めるかもしれないし。  行動を共にしている友人ならば古代語を習得しているかもしれない。 「ガーナ! 準備はできたのー!?」  躊躇なく扉が開けられた。  端切れを繋ぎ合わせたエプロンを身に着けた体格のいい女性、ココア・ヴァーケルは広がっている部屋の状況を目の当たりにし、大きなため息を零した。 「自分でできるって言ったじゃないの」 「えへへ。ママ、私もできると思っていたのよ」 「アンタが来る前よりも広げてどうするの」  ココアは呆れたような表情を浮かべていた。  一目で親子であることがわかる容姿をしているココアは部屋を見渡した。  ガーナが準備をすると宣言して部屋に戻った時よりも、荷物が散らばっており、とても片づけをしようとしていたとは思えない惨状だった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!