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「素敵でしょ? そんな歴史と魔法が残っている国なんて帝国しかないわよ!」
帝国の英雄。帝国の絶対的な守護神。
そう謳われるだけの強大な力を維持している七人の始祖たちによって、帝国は守られている。
「こうやって褒めておけば見逃してくれるくらいには心があるのよ」
ガーナは小さな声でライラに耳打ちをする。
監視されているとわかっているからこその振る舞いだった。
「この空を見て! 帝国が誇る大魔術の偉大な痕跡よ!」
科学と魔法の集大成と呼ばれる爆撃機の攻撃すらも、吸収し、魔力として循環させると謳われている結界を見上げる。
学園都市を覆い尽くす半透明の結界越しの空は、雲一つの無い晴天。
それが自然のものか、人工の景色かは分からない。
見慣れた光景だからなのか。
誰もそれを疑問に思うことはないのだ。
「本当の空なのかわからないけど。でも、私はこの空が嫌い」
フリークス公爵領の外れにある田舎で育ったからだろうか。
自然のものとしか見えない作り物の空が好きにはなれなかった。
それに対して疑問を抱かない同級生たちのことも好きにはなれなかった。
「それに安心してよね、ライラ。なにがあっても、このガーナ様が付いているわ。私の親友に危険なんてないんだから!」
万が一の事があれば、国際問題になるのだ。
一度、事件が起きれば戦争は避けられないだろう。
「不死国の帝国を滅ぼすなんて戦争しかないでしょうけど。――でもね、それを引き起こすのは、ライラの国じゃないって信じているわ。だから、大丈夫! 過剰な心配をしないで楽しみましょう!」
ガーナは自信満々に言った。
まるで未来を知っているかのような口ぶりで話している姿は妙な説得力がある。
「ええ。存じていますわ。ですが、先ほどから不吉な会話ばかりですわ。……ガーナちゃん、予言の才はないでしょうね?」
だからこそ、ライラは思わず問いかけてしまった。
帝国は予言者の言葉に従うかのように戦争を引き起こしたことがある。
それも一度だけではなく、何度も戦争を繰り返してきた。
その前例を考えれば、ガーナの言葉が予言ではない保証はどこにもなかった。
「あはっ。残念なことにね」
ガーナは笑う。
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