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「だって、見たことがない本があったんだもん! これ! 兄さんが置いていったんでしょ!?」
荷物の中から先ほどの古びた本を取り出す。
「兄さん、なんか言っていなかったの?」
それに対してココアは眉を潜めた。
「……ママ?」
何も言わないココアに対し、ガーナは不安そうな声をあげる。
ガーナは兄を慕っている。
しかし、両親たちは兄のことを良く思っていなかった。
「片づけは後にしな。ご飯が冷めちまうよ」
「はーい」
部屋から立ち去ったココアの後を追いかける為、ガーナは立ち上がる。
その際、本を荷物の中に仕舞うことを忘れなかった。
それから力加減によっては軋んだ音が鳴る床に穴が開かないように気をつけながら扉に向かう。
「ママ。明後日には寮に戻るからね」
「ずいぶんと早くに戻るんだねぇ。……そんなに忙しいのかい?」
「ううん。授業が始まる前にライラと買い物をする約束があるのよ!」
扉を片手で閉めたガーナは気づいていなかった。
荷物の中に紛れ込ませたはずの本から虹色の妖しい光が放たれ、その光はガーナの部屋の中を包み込んでいた。
「そうかい。王女様に迷惑がかからないようにするんだよ」
「大丈夫だよ! 私とライラは唯一無二の大親友なんだからね!」
僅かに扉の内側から漏れる光に気付くこともなく、ガーナは早々とリビングに向かってしまった。
眩い光が収まった後、本は消えていた。
その後、ガーナはその本の存在を思い出すことはなかった。
* * *
その日の夜、ガーナは妙な夢を見た。
目の前で捲られる古びた本を眺めているだけの夢だ。
その本には様々な出来事が描かれている。――帝国を守護する七人の始祖の話や聖女の話、革命の危機を乗り越えた話など一度では理解をすることが難しい内容だけではなく、家族愛を語ったものや悲劇の恋等、様々な内容が書かれていた。
……私、この話を知っている。
ガーナはそれを眺めている。
……聖女様の悲しいお話だわ。
それだけなのにもかかわらず、それは哀しい物語の開幕なのだと悟っていた。
* * *
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