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第四話 親友の声は届かない
* * *
「――ガーナちゃあああああああんっ――!!」
ガーナは、ライラの声に振り返りそうになった。
悲しげに苦しそうに自身の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
……今の声。私は知っている。
引き留めようとしている声だった。
その声に振り返れば、追いかけて来た紅髪の少女を見失ってしまうだろう。
それに気づき、また走り出す。足を止めるわけにはいかなかった。
……私を呼ぶ声だった。辛そうな声で――。
それでも、振り返っている暇はない。
例え、名を呼ばれていても振り返るわけにはいけない。
足を止めてしまえば、二度とあの少女を見つけることはできないだろう。
もしも、少女に再び会う機会があったとしても、ガーナは少女のことがわからないだろう。
……必死に私を呼んでいた。
人込みを避けて走る。
前触れのない行為を叱咤する声が飛び交う。
中には、聞き覚えのある声も交じっていた。それでも、走るしかないのだ。
……私を引き留めようとする声だった。
手放すことの出来ないなにかを見つけた気がした。
それと同時に、大切な人を手放してしまった気がした。
……あの子は、私の大切な、――親友だ!!
ようやく、ライラの存在を思い出す。
頭の中を支配するかのように、酷く、ガーナを苦しめていた頭痛が消えた。
まるで、ライラの存在を忘れさせる為だけに苦しめられていたかのようだった。
それに気づくこともなく、走り続ける。
……ごめんね、ライラ。
ガーナには、ライラのことを忘れていた自覚がないのだろう。
なにも言わずに走り出した自分が悪いという自覚はある。
しかし、振り返る余裕はない。
振り返ってはいけないとなにかが訴えてきていた。
振り返ってしまえば、なにもかも終わってしまう気がした。
……ごめんね、本当に、ごめんね。
心の中で地面に頭を擦りつける勢いで謝りながらも、必死に走った。
両腕に大量に掛けられている買い物袋が人にぶつかり、文句を言われても、それに謝っている暇すらない。
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