第四話 親友の声は届かない

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「待ってえええええええええええッ――!!」  それは、偶然だった。一瞬、視界に入っただけだった。  ライラの存在すら忘れ、無我夢中で追いかけた。  ……やっと、見つけたのよ。  一瞬、視界に収まった綺麗な紅色の髪の少女。  一瞬、血が飛び散る戦場を連想させたそれは美しくも儚い人だった。  ……ずっと、探していたのよ。  思い出すだけでも、胸が高鳴る。  不思議と恐怖心は無く、引き寄せられるその少女には懐かしさを感じた。  その人の元へと駆けだすのは、当然だと思えた。 「待ってえええええええっ――!! シャーロット!!」  彼女のことは何一つ知らなかった。  見たのも初めての初めてだった。  けれども、頭の中に彼女の名前であると確信できる言葉が浮かび、気づけば、それを口に出していた。  ……“シャーロット”――?  それに驚きを抱きながらも、ガーナは走るのを止めない。  ここで彼女を引き留めなければいけないと、なにかが叫ぶ気がした。 「シャーロット!」  口にしていたのは、この帝国が、純粋な魔法文明を保ったままの軍事国家として長い年月、発展し続けている所以でもある守護神――、始祖と呼ばれている存在である女性の名前だった。 「待ちなさいよ!」  その女性から加護を与えられるようにと願いを込め、名家ではその名が付けられることもある。  だが、目の前の少女はその類いではないだろう。  ……もしかしたら、それは本能なのかもしれない。  彼女は本物だ。本物の始祖である。  なにかに引き寄せられるようにして走り出したガーナの眼には迷いはなかった。  ここで呼び止めなくてはならない気がした。  その理由を考える必要もない。  これは本能によるものだ。  そんなことを考えながらも、ガーナは走る。  不思議なことに違和感なく、ガーナの中では綺麗に納まっていた。 「やっと、見つけたわ。シャーロット」  ……彼女を見つけたのは、私の運命だったのかも。  彼女は帝国を護る始祖の一人だ。彼女は守護神として崇められる存在だ。
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