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ライドローズ帝国には神様がいる。
それは千年以上も前、帝国の危機を救う為だけに異質な力を与えられた少年少女たちの成れの果ての姿である。
かつて帝国の為だけに命を捧げた少年少女たちは、帝国の始祖として崇められ、この国を永久に守る守護神として祀られる。
そこには彼女たちの意思は必要なかったのだろう。
そこには彼女たちの大切なものはなくなってしまっただろう。
ただ帝国の繁栄を永久に願ってしまった者たちに呪われてしまった彼女たちは役目を果たすことだけが生きることになっていた。
帝国全土に広がっている呪詛【物語の台本】を維持することにより、都合の良い展開を生み出し続けている。
それに疑問に思う人が現れたのは、僅か、百年前のことだった。
「……失望したと怒るかしら」
かつて、誰よりもライドローズ帝国を愛した男性がいた。
帝国の為ならばなんでも手に掛けてしまう恐ろしい男性だった。
彼の名は、ミカエラ・レイチェル。
神聖ライドローズ帝国の四代皇帝として君臨し、帝国を愛するからこその悪行の数々に手を染めた偉大な人物だった。
「失望されたって構わないわ」
女性、マリー・ヤヌットは自分自身に言い聞かせる。
「もう、戻れないのだから」
マリーは、ミカエラを愛していた。
いや、長い年月が流れても愛し続けているからこその行動だった。
「陛下」
ミカエラが生み出した【物語の台本】が保存されている誓約の塔に忍び込み、床に描かれている魔方陣を睨みつける。
「もう終わりにしましょう」
絶望に染まった目をしていた。
何日も泣き続けたような充血をした目を擦ることもせず、魔方陣の中央に足を踏み入れ、ゆっくりと片膝をつく。
「陛下」
愛する人の為にならば喜んで命を捧げるくらいには愛していた。
その気持ちは九百年経った今も変わらない。
「陛下は、ただの村娘だった私の手を取ってくださったのに」
ミカエラは、生まれ育った帝国を愛し、帝国の為に生きた人だった。
ミカエラが頂点に君臨していた時代を生きた人たちは、皆、彼こそが神様だと崇め慕っていた。それ故に、彼の最期には誰もが嘆き哀しんだ。
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