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「お前は誰だ?」
「私よ、わからないの?」
帝国領土内、様々な場所に建てられている始祖を模した石像のように作られた笑みでは無い。
目が合った人間を魅了する魔性の笑みだ。
それが少女、シャーロットに通じないことを理解していないのだろう。
「誰だ。名乗れ」
「だから、私よ。私。ねえ、わかるでしょ。シャーロット」
シャーロットの言葉に対してガーナは答えを出せなかった。
「私の名前を呼んでよ」
そこで初めて疑問を抱く。
自分の名前がわからないのだ。
「あれ……?」
それに気づけば、次から次へと違和感を抱く。
どうして会ったことのない少女の名を知っていたのか。
どうして少女を追いかけて来たのか。
数分前の自分自身の行動を理解できない。
……私、誰だっけ?
まるで幽霊に憑かれたかのようである。
誰かに操られているかのようである。
それを自覚した途端に冷や汗が流れる。眩暈すらしてくる。
「わっ、わたし、わたしは……」
身体が震えてしまう。
恐怖からくるものなのかわからない。
なにもかもがわからないからこそ、恐ろしい。
「わ、わ、たし、は」
ガーナの様子が変わったことを見抜いたのだろうか。
シャーロットは迷うことなくガーナの額に手を伸ばした。
「落ち着くといい。簡単に名を失ってはならない。名を手放せば傀儡になるぞ」
僅かに触れられたところが熱い。
震え続けるガーナを見ていたシャーロットは困ったように笑った。
「なるほど。そうか、お前はアクアライン王国の王女の知人か。では、簡単な方法がある。精霊の愛しい子の力を借りるといい。そうすれば呪詛は弾かれるだろう」
頭の中身を覗き込まれている。
それを拒むことさえもできないガーナに対し、シャーロットは僅かに口角を上げた。
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