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「助けることが出来なくても、それでも、陛下の為に耐えてきました!」
聖女と崇めて、施しを乞う民に手を差し出すことも、ミカエラの聖女であるマリーには許されなかったのだ。
マリーには誰も救うことができなかった。
それでも民は聖女を崇めた。
聖女の導きにより帝国を守護する始祖たちが降臨したのだと嘘偽りの伝承を心の底から信じ、数え切れない人々が戦地で散っていた。
それでも、マリーは聖女として見送り続けた。
愛おしい彼が愛する国民が心穏やかに過ごせる日々を願い続けた。
「私は、陛下から与えられた聖女として振る舞ってきました」
声が震えてしまう。
「すべては陛下の望まれたことだと信じて九百年も生きてきました」
感情的になってしまう。
マリーは零れ落ちそうになる涙を拭い、魔方陣に視線を落とした。
「それも、今日で終わりにします」
民の苦悩を知っていた。民の悲劇を知っていた。
村娘として苦悩の日々を過ごしてきた過去は消えない。
「帝国の為にも、私たちはいなくなるべきなのです」
その日々の間で知ることとなった上流階級により搾取の苦痛も知っている。
忘れることはできない。
それすらもどうでも良いと思えるほどに彼を愛していた。
「陛下。私の愛おしい人」
ミカエラは、マリーの嘘の予言を信じてしまったことにより、その名声を地に落とすこととなった。
「陛下がいない日々を耐えるなんて、私には無理だったのよ」
殺戮皇帝、帝国史上最悪の犯罪者。
様々な悪名高い皇帝として後世に名を遺すこととなったミカエラは、それすらも構わないと思っていたのかもしれない。
「九百年もの間、耐えてきたわ」
ミカエラは、帝国が永久に繁栄することを理想としていた。
「もう終わりにしましょう」
その理想は、数年後、帝国の滅亡という形で壊されることをマリーは告げた。
「なにもかも、私の嘘のせいだったの。でも、陛下がいない日々には、もう耐えられない」
それはその当時の大予言者がした予言と似たような内容だった。
その危機に陥っているとミカエラに嘘を吹き込んだのはマリーだった。
マリーは大予言者の真似をしてでも、ミカエラを振り向かせたかったのだろう。
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