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「陛下の大事な物を奪ってあげるわ!」
【物語の台本】を改悪する為の魔法陣はマリーの血で描かれている。
「あはっ! あははははっ!!」
【物語の台本】を改悪する魔方陣は完成した。
膨大な魔力を込められた魔方陣は瞬く間に暴走をすることだろう。
一歩間違えば帝国だけではなく、世界中を巻き込むことになる。
マリーはそのことを知らなかった。
「あは、はははははははははっ!!」
青白い光を放ち始めた魔法陣の中央に立つマリーはそう思ったのだろう。
一部が狂ってしまっていることに気付かないまま、マリーは笑い始めた。その目には大粒の涙が零れ落ちている。
「これで、これでいいのよ。ねえ、陛下。貴方の理想郷を壊してさしあげるわ」
彼女は正気ではなかったのだろう。
マリーも気付かない間に狂ってしまっていたのだろう。
「きっと、私の正義を認めはしないのでしょうね。いいのよ、いいの。それでもいいのよ」
血文字による魔方陣。
それは、かつて愛した人の描いた理想郷を壊す為だけに生み出されたもの。
「私は私の正義の為に立ったの」
帝国の崩壊を避ける為だけに、歴史が繰り返され続ける。
歴史の中に消え去った人々の意思を踏み倒し、帝国は強力な呪いを基盤として維持され続けている。
「陛下。貴方に恨まれて殺される為の正義を選んだの」
呪いの中に存在する帝国を壊す為に書き換えられた【物語の台本】は暴走をするだろう。
「貴方の大事な物を全部壊してあげるわ」
それは、きっと、彼女以外は望まない。
誰もが繁栄を望む。誰もが一時的な幸せに手を伸ばす。
その為ならば、繰り返しの歴史に気付かぬふりをしてきたのだ。
人間は同じ罪を繰り返す。そういうものなのだと、歴史を解釈してきた。
その流れを止める彼女の行為は、正義と言うべきか、自己満足と言うべきか。
……これでいいの。
涙を流しながらも魔方陣の中央に立つマリーの身体から、光が抜け出していく。
魔力の放出だ。放出された魔力は魔法陣に吸収をされていく。
それを拒みもしないマリーは狂ってしまっているのだろう。
……私は九百年生きても本物の聖女にはなれなかったわ。偽物は偽物でしかなかったのよ。――あぁ、これは、彼女から力を奪った罰なのかもしれないわ。
【物語の台本】の改悪は帝国の平和の維持に大きな影響を与えるだろう。
それを知っていながらも、マリーにその呪詛の方法を教えた人物がいた。
七人の始祖による帝国の体制維持に疑問を抱き始めたマリーを唆した人物がいる。真の犯人と呼ぶべきその人は、先の大戦にて命を落としている。
それは、マリーが禁忌と呼ぶべき【物語の台本】の改悪に手を出す切っ掛けだったのだろう。
辛うじて正気を保っているだけだったマリーの心を壊すのには、充分すぎる影響だったのだろう。
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