虫唾が走る

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虫唾が走る

 これは、1996年5月5日、富山県射水市で起こった十代の女性二人が行くへ不明になり、24年後に発見された未解決事件を参考にしています。  松浦綾香と藤井美紀は、中学からの友人だった。綾香は勝気で好奇心旺盛。美紀は内気で慎重派。お互いの足りない点を補える仲のいい姉妹のようだった。綾香は高校在学中に就職の内定を貰い、出社日までに運転免許を取得していた。就職後、半年が過ぎると中古の軽自動車を購入。美紀は、保母さんになるため短大へと進学を決めていた。綾香は、マイカーを手に入れてから美紀と週末のドライブを楽しんでいた。  連休最後の日に綾香は、何気ない提案をした。それが、二人の運命に暗転を齎すことなど知る由もなかった。  綾香は地元の廃墟ホテルへの肝試しを美紀に持ち掛けた。怖がりの美紀は渋っていたが綾香に押し切られる形で、午後九時頃、家族に肝試しに行ってくると残して車で出かけた。二人は氷見市から魚津市内のホテルに向かった。ホテルは、山奥にある既に廃墟となった北陸では有名な心霊スポットだった。二人は、ホテルに向かう途中、友人にポケットベルで「今、魚津市にいる」とメッセージを送っていた。この当時、携帯電話は普及しておらず、ポケベルが手軽な連絡方法だった。  松浦綾香と藤井美紀は心霊スポットに到着した。月明り以外、街頭などない真っ暗な場所に物言わぬ巨大なコンクリートの建物が朽ち果て、暗い影を落としていた。 綾香「こうして間近で見ると背筋が凍るわね」 美紀「やっぱり、止めようよ、怖いわ」 綾香「臆病なんだから美紀は。じゃ、待ってて、ちょっと探索して気が済んだ    ら返ってくるから」 美紀「分かった、気を付けてね、無理しちゃ駄目だよ」 綾香「分かった、じゃ、行ってくるね」  綾香は怖がる美紀を車に残し、懐中電灯を片手に廃屋の中に消えて行った。 綾香「流石に一人じゃ心細いな、でも、せっかく来たんだから、話のネタにな    る位は体験しないと来た意味がないじゃない」  綾香は寂しさを紛らわすようにつぶやきながら奥へと進んでいった。足元は瓦礫の凹凸でおぼつかない。ひんやりとべとついた空気が湿気た匂いと共に綾香を包んでいた。この廃墟には先人がいた。暴走行為や万引き、恐喝と地元の不良共だった。男たちは、姜好奇(かん・こうき)下地耀斗(きらと)奥山興拳(こうけん)。三人は廃墟に近づく車のサーチライトに気づき様子を伺っていた。何やら揉めている様子がシルエットでぼやけて見えていた。暫くして運転席から一人の女性が下りてきて、懐中電灯を照らしながら廃墟に入って行った。 姜 「やっちまうか」 耀斗「いいねぇ」 興拳「俺が最初だからな」 姜 「俺だ」  耀斗も俺だと三人は順番で揉めた。結果、静かなじゃんけんで姜に決まった。 いつもつるんでいるだけあって悪たくみの結束は素早かった。綾香はひとり気丈にも探索を愉しんでいた。男たちには綾香の照らす懐中電灯で確実に居場所を確認でき、三人は手分けし、綾香が訪れる場所に先回りし潜んでいた。綾香はパーティルームだったであろう部屋に入った。そこにいたのは耀斗だった。  耀斗はテーブルの下に隠れながら息を潜めて綾香に近づいた。テーブル脚の隙間から綾香の脚が手に取る位置に きた。耀斗はテーブルの下から飛び出し、綾香の背後から鼻と口を押え、テーブルの上に押し倒した。綾香は驚きと恐怖で必死で抵抗した。高校時代バスケ部だった綾香の抵抗は思いのほか激しく、制圧したい耀斗は綾香の左頬を拳で勢い良く殴った。喧嘩慣れしていた耀斗の拳は綾香の気を失わせた。大人しくなった綾香をいいことにデニムパンツを強引に脱がせるとショーツを脱がせた。耀斗は綾香が持っていた懐中電灯で綾香の股間を照らし、凝視しながら自分のいきり立った一物を綾香の股間に差し込んだ。綾香の股間は綾香の意志に関わらず、いきなりの訪問を拒むように受け入れなかった。それでも無理に押し込むとズボズボ綾香の中に侵入していった。あとは性欲に任せて激しく腰を抜き差しするだけ。高ぶる興奮で一発目の発射を終えると、トップスを目繰り上げブラを剥ぎ取り乳房を露呈させ、乳頭を舐めまわしながら、復活した一物を再び綾香の股間に挿入し、二発目を堪能した。よとすると綾香が目を覚ました。綾香は「やめて。警察にいうわよ」と綾香は暴れた。果てた。  そこに現れた姜と興拳は、綾香に覆いかぶさる耀斗を払いのけ、各々に綾香の体を愉しみ性欲を満たした。姜が一物の挿入を試みたその時、綾香が目を覚ました。綾香は「やめて。警察にいうわよ」と暴れ始めた。姜は、不味いと思い咄嗟に綾香の首を性欲を邪魔された怒りもあり強く首を絞めた。そこで異変に気付いた。 耀斗「動かなくなったぞ」  不安になりながら耀斗は剥き出しの綾香の乳房に耳を当てた。 耀斗「う、動いていない」 興拳「死、死んだのか」 姜 「やっちまったか」  三人は当たりを見渡し自分たちの置かれている状況を確認した。誰にも見られていない。見つかるわけがない。暗黙の了解のように悪党たちは状況を飲み込んだ。 姜 「だとしたら、車に残った女も頂くか、今度は俺が最初だからな」  三人で近づくと警戒心がMAXになるからと女たらしの姜が綾香の持っていた懐中電灯を持ち廃墟を出て美紀の乗っている車に近づいた。美紀は懐中電灯の明かりに気づいた。でも様子が可笑しいのはすぐに分かった。「綾香じゃない 」。  姜 は笑顔で美紀に近づくとドアを優しくノックした。美紀は危険を感じて2cmほど開けた。 姜 「一人?」  美紀は視線を合わさないように俯いて左右に大きく首を振った。 姜 「怖がらせてごめん。俺、肝試しに来たんだ。そしたら懐中電灯が落ち    ていてほかに誰かいるのかなと廃墟から出てくると車が止まっていたか    ら」 美紀「綾香はどこ」 姜 「 一緒に来たのは綾香さんていうのか。戻ってきていないのか、心配だ    ね。一緒に探そうか、これを拾った場所から始めれば見つかるんじゃな    いか」  美紀は不安に思いながら綾香の事が心配なのとこの後どうすればいいか分からず、戸惑いながらも姜の提案に従うしかなかった。美紀は、姜の後を身震いを堪えながら付いていった。連れて来られたのは綾香のいる部屋だった。姜 が綾香を犯したテーブルに懐中電灯を向けた。美紀はそれが綾香だとすぐに分かり駆け寄った。「綾香」と美紀が声を掛けたのを合図にテーブルの下に潜んでいた耀斗と興拳が飛び出し、美紀の手と足をそれぞれが抑えた。「何するの、やめて」。美紀の訴えは野獣には聞こえなかった。 姜 「順番は守れよなぁ」  姜は美紀のデニムパンツをずり下げショーツを毟り取ると自分の一物を満足させようと美紀の両足を持ち、ガバッと広げた。今まで足を持っていた興拳は耀斗と共に美紀の上半身を堪能していた。「やめて~」。美紀の声を聞き取る者は誰もいない。 姜 「こいつ、初めてだぜ」 興拳「ついてるな。あとで祝杯だな」 耀斗「今夜はついているぜ。心霊スポットにかんぱ~い」  三人は思いの丈を晴らすと現実に戻された。姜 に凌辱された美紀は二番手の耀斗の時は放心状態で無抵抗だったが興拳の番になって急に極限の恐怖から発狂したように暴れ出した。極限に達していた性欲を邪魔された怒りから興拳は腹いせ交じりに美紀の左頬を殴った。美紀は一瞬で動かなくなった。極度の恐怖と頭蓋骨への衝撃でのショック死した。 姜 「こいつも死んだのか」 興拳「そんなの関係ねぇ」 姜 「お前なぁ」  姜と耀斗は屍姦する興拳の傍で笑いながら煙草をふかしていた。ことが終え性欲を満たした三人はこれからのことを考えた。 興拳「こいつらの始末をどうする、山にでも埋めるか」 耀斗「車はどうする」 姜 「厄介だな」 耀斗「そうだ深い海か川に車ごと捨てるか」  姜は先輩から抗争の果てに遺体を始末するのは海に放置するのが一番だと聞かされていた。そこは廃墟から40㎞離れた海王丸パークの有礁付近だった。別案がない耀斗と興拳は首を縦に振った。三人は手分けして、綾香を綾香の車のトランクに、美紀を後部座席の底に寝かせ、シートカバーを剝し、外から見えなくした。姜は自分たちが乗ってきた車に乗り、耀斗と興拳と二人の遺体乗せた車を先導した。  海王丸パークにつくと遺体の乱れた服装を直し、綾香を綾香の車の運転席に、美紀を助手席に座らせギアをニュートラルに入れ、車の窓の全てを開け放った。た耀斗と興拳は車の左右に分かれ、窓から手を入れ、車を海へと進ませた。埠頭壁から前輪が脱輪した。同時に車の底に埠頭の岩が邪魔をし車は動かなくなった。それを見た姜は 耀斗と興拳に車から離れるように指示を出すと、姜の載ってきた車を静かに動かし、綾香の車に傷をつけないようにジワリジワリと進ませた。ギギギギィ、ガタン、ボシャ~ン、ブクブク。  水面に落ちた車は泡を吹きながら沈んでいった。三人は水面を見たが暗くて分からなかった。その時、懐中電灯は沈めた車の中に置いたままだった。  三人は周りに誰もいないことを確認し、その場を立ち去った。  松浦綾香と藤井美紀はその日、帰れる状態ではなかった。綾香と美紀の親は共同で警察に助けを求めた。富山県警は事故と事件の両面から捜査を始めたが、当時は防犯カメラなど少なく、手掛かりを見つけ出せずにいた。唯一、魚津方面へ向かう車に乗った二人を見たと言う目撃証言だけだった。ただこの証言は午後10時と言う暗い時間帯で確認できたのには疑問の余地が残されていた。氷見市は地方都市で夜で歩く人は少なかった。この頃、防犯カメラも普及していなかった。警察は山岳捜査隊を動員し、ヘリも飛ばして崖下などを捜査したが見つからなかった。空しく時は過ぎていった。  一年後、新聞で二日間に渡り特集記事が組まれたが情報は得られなかった。手がかりもなく十八年の月日が流れた。まさに、神隠し。  1996年の事件発生後、18年後の2014年、思わぬ展開を見せた。 (当時、罪を犯しても問えない時効があった。殺人事件に関係する時効には「公訴時効」「刑の時効」「消滅時効」の3種類があった。公訴時効とは、法律で定めた期間が経過すると、検察官が起訴できなくなり犯人を処罰できなくなる制度(刑事訴訟法第250条)。刑の時効とは、刑(死刑を除く)の言い渡しを受けた場合に、その刑が執行されないまま法律で定めた期間が経過すると、刑の執行が免除される制度(刑法第31条)。死刑に対しては刑の時効が適用されなかった。消滅時効とは民事上の時効のことだ。殺人事件では、被害者(遺族)がもつ不法行為にもとづく損害賠償請求権が、法律が定めた期間の経過によって消滅する制度(民法第724条)。公訴時効は犯罪の法定刑ごとに期間が定められている。殺人罪にも25年という公訴時効があったが、平成22年4月の刑法および刑事訴訟法の改正によって「人を死亡させた犯罪であって法定刑の上限が死刑であるもの」については公訴時効が廃止されている。)  思わぬ展開とは、「事件当時、女性二人の乗った車が海に落ちるのを見た」と言っている人がいると、富山県警に情報提供した人がいた。情報提供者と 言っていた人は別人であり、夜の世界での話だけに情報の真意を知る者を探し出すのに五年を要した。情報提供者が聞いた発言者は、発言者が通うスナックの常連客から特定された。しかし、仲間がいることから警察は慎重に詰めていくことを選択した。その仲間の判明は時間を要するものではなかった。発言したのは強面で見栄っ張りの奥山興拳だった。酔った勢いと事件からもう20年も経ち油断が生じたというより、捕まるという警戒心が薄れた結果の武勇伝の成れの果てだった。  警察は確証を得られずにいた。遺体亡き犯罪の立証と18年前の事件だけに容易に拘束や逮捕に踏み切れない。周辺の動きを狭めれば逃走の恐れもあった。その懸念から証言を得るのに五年も罹った。この時点でも警察に拘束の理由が得られないでいた。それをいいことに特定された三人、姜好奇・下地耀斗・奥山興拳は口裏を入念に合わせる時間を与えてしまった。とは言え、馬鹿に付ける薬はないと言われるほど考え抜いた口実は砂上の城だった。  三人は警察に対して「1996年の大型連休の深夜、女の子に声を掛けようとした。場所は海王丸パーク付近です。停まっていた車を見つけた。中には女の子が二人いてナンパしようとした。声を掛けようとしたら車が急に走り出した。後ろ向きに走り、そのまま海に落ちたんです」と話した。通報しなかった理由を「転落の責任を問われるのが怖かった。怖くなって急いでその場から立ち去った」と振り返っている。  富山県警はこの証言を元に富山県射水市にある港の海底で二人の遺体がある車を発見した。遺体は傷んで白骨化していたが大腿骨の一部からDNAが検出された。DNAの鑑定結果と遺留品から遺体は、松浦綾香さんと藤井美紀さんだと特定された。事件発生から実に24年後の事だった。  しかし、この三人には可笑しなことがあった。事件が起きたのは1996年、結果的に警察に話したのが2020年、24年が経っていた。なのに三人の証言が詳しく同じ内容であることだ。確かに衝撃的な出来事だから幾度も思い出した、にしても捉え方は各々違って当然。細かな相違点が生まれるのが自然だ。如何にも相談しました。台詞を覚えましたという不自然さがあった。  彼らの証言を元に警察は過去のあらゆるSNSへの投稿を調べていた。そこで気になる投稿があった。2001年のものだった。投稿主はここでも女性だった。仮にY子として提示する。Y子によると事件発生翌年の1997年の夏の出来事を思い出し投稿したものだった。  Y子はスナックにチーママとして勤めていた。ママ、チーママ、スタッフのこじんまりとした店だった。ひょんなことから肝試しの話になり、その流れで廃墟ホテルで 女子二人が行方不明になった事件の話で盛り上がっていた。そこで少し離れた席にいた20代後半のちょっと強面の男がチーママのY子を呼んだ。Y子は五月蠅いと叱られるのだと構えてその男の前にカウンター越しに立った。 男 「さっきお前が話していた事件に興味があるのか」 Y子「ええ、わだいになっていたから」 男 「じゃ、教えてやるよ」 Y子「ぜひ」  男は奥山興拳だった。興拳は俺は他とは違うんだと優位性を見せびらかしたいために酔いも手伝って話気になった。もちろん、酢場など明かすわけはなかった。絶対誰にも言うな、と念を押してから話し始めた。ママはチーママがクレームを聞いてくれていると思い、他の客と敢えて盛り上がって見せていた。 男 「二人の女の子は肝試しに行くつもりだったけど途中で一人が怖くなり、    一緒に行ってくれる人を探し始めた。海王丸パークで同行人を探してい    ると丁度一人の男が見つかった。男は自分の車で先導し、二人を廃ホテ    ルまで案内した。実はこの男は三組の一人だった。男は廃ホテルに向か    う振りをして、病院跡地へと二人を誘い出した。そこには仲間が先回り    していた。呼びき出された二人は、男三人に凌辱された。二人は泣きな    がら、やめて、と抵抗したが一人を殴って気絶させたさせて欲望を成し    遂げると気絶していた二人目にも同じことした。その時、気絶から覚め    パニックになった女が、警察に行ってやるから、と叫んだ。男の一人     がビビッてその女の首を絞めた。その子は動かなくなった。発覚を恐れ    た傍にいた男はもう一人に手を掛けた」  Y子には真偽のほどなど分からなかったが、ありそうな話に悪寒が走っていた。その姿を愉しむように 男 「遺体はマンホールの中に捨てた。車は指紋をふき取って山に放置してあ    る」 と話を締めくくった。Y子は後になって男の話を思い出した時、最初は伝聞のように話していたが最後は自分がやったように話しているのに気づき怖くなった。それから落ち着いて書き留めたくなって投稿したものだった。  警察は車や遺体発見の状況の違いに留まったが、犯人が敢えて事実を歪曲して話したものではないかた。車の捨て場所は事件の発覚を恐れたものだと考えていた。事件と無関係な者がここまで話を作れるか、この男は事件関係者に違いないと男の正体を探るも一見さんでふらっと立ち寄った客であり、特定できなかった。頸椎骨折や暴行の後は遺体の損傷が激しく確認できなかった。  警察は二人の女性が訪れたであろう廃ホテルから遺体発見場所までが離れすぎていることに注目していた。廃墟に行った後、海王丸パークに行き、そこで何らかの事情で運転動作を間違い転落しない限り、辻褄が合わないと考えた。廃ホテルで殺害され、海王丸パークまで運ばれ、遺棄された疑いは捨てられなかった。後者であれば複数犯が濃厚だ。異なる証言だが複数の男たちが二人の女性を襲い、亡き者にしたことは共通していた。ある事実を変化させたものだと考えられた。  警察は浮かび上がった姜好奇・下地耀斗・奥山興拳を犯人だと考え、証拠や目撃者を探したが物証が見つからず公訴時効を迎えた。三人を拘束し自白を得たとしても裁判で供述を覆されれば、証拠不十分で無罪。一事不再理で二度と裁けなくなる。警察側に打つ手がなかった。  姜好奇・下地耀斗はホストとして、女を騙して多額の借金をさせ、返済のためだと売春を斡旋してその上がりで豪遊生活をしていた。姜好奇・下地耀斗は日々、女を食い物にする楽しさから事件の事はとっくに記憶の沼に沈めていた。奥山興拳は、夜な夜な悪夢に晒されていた。睡眠不足を酒で誤魔化していた。そんな折、たまたま入った店で自分たちが犯した事件の話が上がり、アルコールと寝不足から英雄になりたくなり、誤魔化しながら話してしまった。それがきっかけで行くへ不明になった女性は発見されたが、三人は今もどこかで何食わぬ素振りで犯罪を犯しているのに違いない。
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