7月7日

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 彼は知ってるだろうか?  私がもうこの世界にはいないんだということを。  彼と出会った1年前から、世界が止まっているんだということを。  「キスしてええ?」  「だめ」  「なんで?」  「時間ないじゃん」  「キスするだけやし」  「嘘ばっかり」  「嘘つきはお前やん」  「は?」  「昨日10時には帰ってくる言うて、帰ってこんかったやん」  「それは…」  彼に内緒にしていることがある。  話そうか話すまいか、ずっと悩んでた。  でも、話したところで、この秘密が歩ける場所がないことも知っていた。  私はただ、彼と一緒にいたかった。  何気ない時間を過ごしていたかった。  それは「彼女」の願いでもあった。  私の体の中にいる、「石神未玖」という、——少女の。  影の外に出なきゃいけない。  閉じ込められた時間の外に、出なきゃいけない。  彼に話したくても、話せないことがある。  何かを隠すつもりはないんだ。  いっそ洗いざらい全部話して、胸のうちにあるすべてのことを打ち明けてもいいと思ってた。  …でも、もう時間がないんだ。  影が迫ってるんだ。  せめて今だけは、彼と触れ合っていてもいいかもしれない。  目を閉じていてもいいかもしれない。  不意にそう思う自分もいた。  まるで夢みたいな、無くしたはずの日常の前で。
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