自由の魔女は、空を望んだ

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自由の魔女は、空を望んだ

 これは自由を求める、魔女の物語――。  見習い魔女、リコの住む島は、樹に覆われていた。  頭上を見上げれば、枝葉が密接に重なりあって、一寸の光すら届かない。だからこの島に、空はない。崖に向かえば、木々の蔓が海底にのびて島を包み、内と外とを隔てている。蔓の壁だ。だからこの島に、海はない。島は、樹でつくられた、完ぺきなドームに覆われていた。 「絶対、出ていってやる」  ここには昼も夜もない。あるのは樹と、ランタンの灯りだけ。リコはもう限界だった。  年季の入ったほうきに、乱暴に飛び乗る。枝葉ばかりの頭上を見上げて、ほうきの柄を握った。 「――すべてを燃やす火はいずこ。その火はここに。私のもとに」  詠唱すると、周囲に火の玉が浮かび上がる。ちりちりと空気を燃やす火の玉は、リコの視線に応じるように、頭上に走る。  爆発音。  火の玉は、枝葉を燃やした。樹の天井に開いたすき間から、わずかに見える小さな光。その瞬間を見逃さず、リコは地面を蹴りつけた。ほうきはすぐさま浮かび、すさまじい速度で光に向かう。リコの身体が木々のドームを抜ける――かに思えた。  だが、燃えたはずの木々がリコの速度を上回って空に。ばさばさ、と枝葉が重なり合いながら上方にのびあがる。あ、と思う間もない。のびた枝葉はリコと光とを遮った。びっしりと枝葉で覆われた頭上。 「うわ」  ぶつかる、と思った。  だが、ほうきを後ろから、なにかに掴まれる。これもまた、樹だ。地上から蔓がのびてきて、ほうきを捕らえていた。そのまま、地上に引きずりもどされる。リコにはどうすることもできなかった。  今度は地上にぶつかる。と思いきや、リコの身体は、もわん、とやわらかく包まれた。地上に、衝撃緩和の魔法が施されていたのだ。その魔法の使い手は、仰向けに倒れたリコを見て顔を歪める。 「リコ、脱走なんてやめなさい」 「先生……」  魔女であるリコの師匠。いつも目の下にくまをたっぷりつくっている、長身の女性だ。地味な顔立ちの彼女には似合わない、大ぶりな赤い石の耳飾りが、いつものように揺れている。 「魔女は師の許可が出るまで、外界に出るのは禁止。魔法の制御が完ぺきにできると判断できなければ、一般人に危険が及ぶ可能性もあるのだから。リコはまだ子ども。外に出る許可はできません」  いつも聞かされている言葉だ。だからリコも、ずっとこの島で生きてきた。だがもう、限界だ。リコは先生をにらみつけた。 「私、もう大人だし」 「いいえ、子どもです。赤子みたいなものです。大人にはほど遠い」 「ひど。先生。私はいつ出られるの?」 「そうね……。まあ、百年後くらいには」 「なにそれ」 「気長に待ちなさい。どうせ、外にはもう魔物がいないのだから。魔女の仕事はないのだし、気長でいいの。とにかく、脱走禁止」  ぴしゃりと言って、先生は背を向けた。
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