自由の魔女は、空を望んだ

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「こっぴどくやられたね、リコ」  ふり返ると、サナがいた。リコと同じく先生のもとで学んでいる、理知的な魔女仲間だ。この島には、リコ、サナ、先生の三人しかいない。物心ついたときから、そうだった。  リコは周囲を見渡す。この島でほかに生きているものといえば、樹齢七十年のソフィア姉さんや、樹齢四十年のロットなど、先生の育てる木々くらいだ。名前はリコが勝手につけた。だって名前を持った生命体が自分たち三人だけなんて、つまらない。 「やっぱり、のびる樹が厄介だよ。鬱陶しい。成長速度、速すぎ」  先生は時間を操る魔法が得意だ。この島の樹はすべて先生の庇護下にある。燃やしてもすぐのびる。リコは樹をにらんだ。 「リコは、どうして外に出たいの? ここの生活だって、不便はないでしょ」 「そりゃあね。でもここは平和で、平和で、平和すぎる」  閉じた世界にいても、退屈だ。絶望だ。飼い殺されている気分だ。心が飢えている。外を望んでいる。  魔法があれば、たいていのことはできる。そんなリコをもってしても唯一手に入らないものが、自由だ。一度も島の外に出たことがない。出たい、この檻から。 「私は完ぺきに魔法が使えるから、外に出たって問題ない。空が見たいの。広い空が。百年後なんて、待ってられない。……ねえ、サナも手伝ってよ」 「どうせまた失敗する」 「大丈夫。今回は使わなかった、隠し玉の新魔法があるの。今度はいける」  サナは思案顔をしていた。もうひと押しが必要だな、とリコは口を開く。 「外に出れば、色々な魔法の研究ができるよ。太陽の光は強力らしいし、海には使い切れないくらいの水がある。光魔法も水魔法も、たくさん研究できる」  物心ついたときから、サナと共にいたのだ。彼女も現状に不満を持っていると、リコは知っていた。 「……仕方ないな」  ほら、のってきた。 「よし、じゃあ明日。脱走実行ね。敵は、先生の育てた、のびすぎる樹」
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