自由の魔女は、空を望んだ

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「先生、なにかを隠してるよね」  リコは自室の机に突っ伏した。ベッドに腰かけて本を読んでいたサナが、ちらりと視線を向けてくる。 「やめなよ、リコ。子どもじゃないんだから。もっと行儀よくして」 「先生が言うには、私たち、まだ子どもらしいけど」 「この小説だと、十六歳で成人して結婚もしてる」  サナが本を示した。先生の蔵書だ。 「はあ?」  リコは顔を歪める。 「なにそれ。十六歳とか子どもじゃん。どこの国の話?」 「さあ」 「――ねえ、サナ。なんで魔物がいるのかな」  魔物はすべて討伐された。世界は平和になった。先生が生まれるずっと前に。リコは先生から、そう教えられている。だが、それは真実か? だって魔物が、いたじゃないか。  リコもサナも、外の世界を知らない。先生の話や、先生の蔵書からしか、知ることができなかった。自分たちは無知だ。  リコはサナのとなりに腰かけて、声をひそめた。 「先生がなにを隠しているのか、探ってみようよ」 「どうやって」 「記憶紡術(ぼうじゅつ)、覚えたんでしょ? ずいぶん長い間、研究してたよね」 「……なんで知ってるの。でもあの魔法は、対象者の記憶がしみついている道具を媒介にする。でも、先生のものを盗むなんて無理でしょ――」 「はいこれ。先生の耳飾り」  リコは赤い石の耳飾りを取り出した。サナが目を丸める。 「いつのまに」 「先生を抱きしめたとき」 「……なにも考えてない顔して、結構やるよね、リコは」 「ほめ言葉としてもらっておくよ」  サナはため息をついて、「仕方ない」と耳飾りを受け取った。サナだって、なにが秘されているのか、知りたいのだ。彼女なら絶対にやってくれると、リコは知っていた。 「――開け、記憶の扉。紡げ、そなたの物語」  詠唱したとたん、耳飾りから白い靄があふれ出た。それは部屋を満たし、やがて色づく。耳飾りの見てきた、過去の世界を、そこに映した。
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