5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「先生、なにかを隠してるよね」
リコは自室の机に突っ伏した。ベッドに腰かけて本を読んでいたサナが、ちらりと視線を向けてくる。
「やめなよ、リコ。子どもじゃないんだから。もっと行儀よくして」
「先生が言うには、私たち、まだ子どもらしいけど」
「この小説だと、十六歳で成人して結婚もしてる」
サナが本を示した。先生の蔵書だ。
「はあ?」
リコは顔を歪める。
「なにそれ。十六歳とか子どもじゃん。どこの国の話?」
「さあ」
「――ねえ、サナ。なんで魔物がいるのかな」
魔物はすべて討伐された。世界は平和になった。先生が生まれるずっと前に。リコは先生から、そう教えられている。だが、それは真実か? だって魔物が、いたじゃないか。
リコもサナも、外の世界を知らない。先生の話や、先生の蔵書からしか、知ることができなかった。自分たちは無知だ。
リコはサナのとなりに腰かけて、声をひそめた。
「先生がなにを隠しているのか、探ってみようよ」
「どうやって」
「記憶紡術、覚えたんでしょ? ずいぶん長い間、研究してたよね」
「……なんで知ってるの。でもあの魔法は、対象者の記憶がしみついている道具を媒介にする。でも、先生のものを盗むなんて無理でしょ――」
「はいこれ。先生の耳飾り」
リコは赤い石の耳飾りを取り出した。サナが目を丸める。
「いつのまに」
「先生を抱きしめたとき」
「……なにも考えてない顔して、結構やるよね、リコは」
「ほめ言葉としてもらっておくよ」
サナはため息をついて、「仕方ない」と耳飾りを受け取った。サナだって、なにが秘されているのか、知りたいのだ。彼女なら絶対にやってくれると、リコは知っていた。
「――開け、記憶の扉。紡げ、そなたの物語」
詠唱したとたん、耳飾りから白い靄があふれ出た。それは部屋を満たし、やがて色づく。耳飾りの見てきた、過去の世界を、そこに映した。
最初のコメントを投稿しよう!