自由の魔女は、空を望んだ

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 外に出たら、死ぬかもしれない。それでも出たい。  それに、先生の記憶を見て、思った。リコとサナは強い。おそらく、外の魔女よりも。三十六年、魔法のことだけを考えて生きてきたのだから、強くなって当然だった。きっと外の世界でできることがたくさんある。  自由になりたい。  障壁は、先生だ。だったら先生の魔法を倒す。  そして外に出たら、その先には新しい障壁――魔物がいるのだろう。ならば、その魔物だって、倒せばいい。  世界を救いたいなんて理由で、リコは外を目指すわけではない。ただ、自由になりたい。それだけだった。 「リコ! サナ!」  先生がほうきで追って来る。地上から、蔓や枝が一気にのびる。すさまじい速度と重量だった。でも――、いまならわかる。リコとサナを愛しているから、失いたくないから、この樹はのびてくるのだ。ひとつひとつが、先生ののばした手に見えた。自分たちを引き止めようと必死にのばされるそれを、リコは愛おしいと思った。  のびるのびる、樹がのびる。  それでも――サナの魔法が木の動きを止めた。 「どいて!」  サナの声に、天井に穴が開く。 「駄目! 行かないで!」  先生の悲愴な叫びが響く。 「信じてよ、先生」  リコはほうきの柄を握った。速度を増す。木々より速く、駆け抜ける。空に出る。魔物たちが、待ち構えていた。腐った竜たちが、何頭も。  サナがなにかをばらまいた。植物の種だ。みるみる芽が出て、巨大な蔓となり、魔物たちをがんじがらめに捕らえる。 「リコ、あそこ!」  一番大きい魔物を、サナが示す。それはサナの蔓を容易く千切っていた。あれが、おそらく核だ。この魔物たちは、命がつながっている。  リコは息を吸った。  目の前の魔物は、リコの自由を阻むものだ。ならば、倒すだけだった。 「私は光。()く疾く、白く、(ほとばし)る――……っ!」  白い光を、リコはまとった。高火力の熱と光の弾丸と化す。いまの自分は最高峰の武器だ。ほうきの柄を強く握りしめた。  狙撃まで、三、二、一……!  一瞬だった。  雷の速さで、リコは魔物に突っ込んだ。リコの身体が、魔物を貫く。魔物は内側から、リコの熱に溶かされる。悲鳴もない。それは圧倒的で、一方的で、破壊的な一撃だった。  魔物が爆ぜた。轟音だった。耳が痛い。いっそ無音に感じるほど、強大な爆発音とともに、魔物の命は尽きた。核が死ねば、周りの魔物も死ぬ。魔物たちは次々に眼下の海へと落ちていく。  空に残ったのは、リコとサナと先生だけだった。 「そんな、魔物を、一撃で……」  先生は、呆然としている。リコはふり返った。やっと耳鳴りがやんでから、微笑んだ。 「ほらね、強いでしょ、私たちは」
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