31 ヴァイオレット16歳の3月に戻る

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 目を開けた。高い天井が見えた。意識が混濁する。この天井は昔よく知っていたものだ。自慢の屋敷。私の実家は貧しくて古いアパートの低い天井とは違う。  ――あぁ、戻ってきたのか。  私は記憶の混乱を鎮めようと、高い天井を見つめたまま静かにじっとしていた。右手の下に固い板のようなものが当たる。よく知っている感触だ。モゾモゾと動かして、それをつかんで目の前に持ってきた。  スマホだ。  中世の世界にスマホ。いや、違う。中世のような異世界にスマホだ。私が学んだ歴史では、聖女はジャンヌダルクぐらいしかいなかった。彼女に異質なスキルという超能力を有する痕跡は見当たらない。他の聖女と呼ばれた少女たちは早くに亡くなり、自由にスキルを発揮していたといった痕跡はない。自らの身を守るために不思議な力を発揮したという逸話が残っているぐらいだ。  私が戻ってきた世界には聖女が存在する。その力は超能力寄りで、アメリカのドラマにあったヒーローのような力を有する存在だ。  バリドン公爵家の領地は広大だ。葡萄畑を有し、ワイナリーを持っている。資産はそれだけではない。これから聖女の私が鉱山も発見する。  ――いつの年齢に私は戻ってきたのだろう?  私は起き上がって鏡を見た。若い。ここからか。となると、祖父が生きている時代に戻ってきたとなる。私が聖女であると皆に思われる前だ。
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