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私のところに死神が迎えにやってくる2年前の春。バリドン公爵家には祖父がまだ生きていた。父もだ。屋敷全体には活力が溢れ、雪解け後の春の伊吹に胸が弾むようだった。
16歳の私は走るように食堂に急いだ。
「ベス、ベジューランダ伯爵領で収穫された素材を使っているわね?」
継母のルイーズが、料理人のベスに念押しをしている。ルイーズがアンナをみごもってつわりで苦しんだ時期以来、ルイーズの実家の野菜しか受け付けられないというのにうんざりしつつも、アンナが生まれて2歳になるこの頃までは、みんな仕方ないと思っていた。食堂には少し張り詰めた空気が漂っている。
暖炉の火は暖かく部屋を暖めており、春とはいえ、まだ冷え込む空気を心地よい温度にしてくれていた。
結局、継母ルイーズのこのこだわりは、皆の期待に反して私が18歳まで死ぬまで続いたはずだ。
「お母様、バリドン公爵領で収穫されたものもとても美味しいのよ」
私は食堂の皆の空気を和らげようと、軽やかな口調でルイーズに言った。
「アンヌだって、自分の領地で採れたものを食べたいはずだわ」
ルイーズはムッとして黙った。私の顔を少し驚いたように見つめている。この件で私は今まで一度もルイーズに意見をしたことがなかったから驚いているのだろう。
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