32 容疑者リストの最上位は恋する元婚約者

3/7
前へ
/415ページ
次へ
「ハリー、公爵領の野菜の収穫量について後で報告してくれるかしら?」  私は執事のハリーに声をかけた。驚いた表情を浮かべたのは執事のハリーだけではない。ただ、別の世界で20歳まで生きたおかげで、栄養学の常識は備わっている。必要な栄養が取れるように、バリドン公爵領地で育てる食糧を見直したい。これは聖女のスキルとは無関係だ。別の世界で生きたことで身についた知識だ。私たちは未来にいけば行くほど、生まれてから身につける一般常識が高度になっていく。貧富の差に関係なくだ。私はこの世界の貴族の誰よりも、高度な知識を持っている自負があった。どんなに貧しくてバイト三昧の苦学生だったとしても。  私は暖炉の前で薪をくべている使用人のケネスの背中を見つめながら、言った。 「私かアンヌがこの国の王子と結婚する未来だってあるのかもしれないわ。別に王子と結婚しなくても、バリドン公爵の子孫を未来に繋げる使命があるのよ、お母様。栄養の管理は公爵領地の民のためでもあり、このバリドン公爵家で働くみんなのためでもあり、私たちの未来のためでもあるのよ」
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加