36 王子に結婚の申込

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「18歳の私のスキルはもっと上がっていますわ。あなたの妻はこの国のためにもあなたのためにも貢献して、きっとあなたを愛しますわ」  ヒューはドキッとした表情になって、慌てて頭を振った。私のことをまだ少女だと思っているから、そんな目線で私を見れないのだろう。それは健全な反応だ。  私は運命の流れを変えようとしたのだ。秘密に結婚の取り決めをして、婚約破棄されることなくいきなり結婚に持ち込めるようにしたかった。逆プロポーズしたが、これはヒューと私だけの取り決めのまま2年を生き延びようと思ったのだ。 「分かった。覚えておくよ」  私は手を差し出してヒューに握手を求めた。ヒューの髪の毛が風に揺れて、美しい瞳が私を静かに見つめ返した。彼の唇は微笑んでいる。彼は私の表情をじっくりと見つめた後、手をしっかりと握ってくれた。 「この話は秘密です」  私はヒューに小さな声で囁いた。 「分かった。聖女候補さん。君の話を覚えておくよ。楽しみに待っているよ」  ヒューは肩をすくめてそう言ってくれた。私の心に温かい想いが溢れた。無念を晴らすことができるよう、少し変えてみた。いや、大胆に変えてみた。私とヒューの未来は良い方向に進むのだろうか。  アルフレッド王子とルネ伯爵家の子息の件は、新しい情報だ。ルネ伯爵家の子息について調べる必要があるようだ。マルグリッドの周囲は何か怪しい要素がある、私は改めて思った。  6年前に墓地で会ったあの少年が、栗色の髪をして輝くような闊達な笑みを浮かべる精悍な青年になるのを私は知っている。アルフレッド王子はヒューの代理として私と各地を馬車で巡り、私の計画を熱心に聞いてくれた。  アルフレッド王子が私の殺害に関わる動機が思いつかない。王位継承権第二位の彼はヒューの次に王座に着く権利を有する。  ヒューを廃するならともかく、そう考えた私はドキッとした。  ――ヒューを廃する……?  私を殺す計画だけでなく、ヒューを廃する計画はなかったのか。  考えたこともなかった可能性に私はしばらく呆然としていた。22歳のヒューは私の目の前で呑気に本を抱えて、私に微笑んでいた。私はふとその瞳に引き込まれそうになって、ハッとして慌てて辞した。私はまだ16歳で、今はヒューに近づくべきではない。2年後に結婚する計画だけれども。 「逆ポロポーズした割には、もう帰るんだね、小さな聖女さん」  彼のからかうような声が慌てて庭園を戻っていく私の背中を追いかけてきた。  私の顔は真っ赤だった。ヒューは素敵すぎた。  
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