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王立修道院の一角に聖女の養成機関があった。馬車はガタゴト揺れて野を進んでいる。広大な敷地がある王立修道院は、都から少し離れた場所にあった。私の膝の上でスマホが揺れる。一緒についてきた父は馬車の揺れで気持ちよくなったようで、さっきから居眠りをしていた。
――ヒューったら、爆イケだったわ。なぜ私は気づかなかったんだろう?別世界の視点を持って改めて彼を見たら、とんでもなく魅力的な男性だ。
私は馬車の中からスマホでこっそりあちこち写真を撮りながら、心の中でヒューのことを思っていた。
春の野には、白いハナアネモネの花や、黄色いキバナイチゲが咲き、白いマツユキソウも咲いていた。白い花が咲くスピノサスモモも道なりに見えた。春を謳歌し始める野を眺めながら、私は胸いっぱいに大気の空気を吸い込んだ。
忘れていたが、前回も聖女候補に選ばれて王立修道院に向かう馬車の中で私はワクワクしていた。でも、ヒュー王子のことなど全く思わなかったと思う。
私は少なくとも一つは改善しなければならない。
前回、私は訓練が足りなかった。失恋したぐらいで力を失う聖女など、聖女失格だ。自分の心はどうあれ、力を出すことができるようでなければ聖女の名に恥じる半端者だ。
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