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私達は純斗の部屋にいた。
純斗の部屋のホワイトボードには簡単な地図が描かれている。ボアルネハルトの国境沿いに線が引かれ、隣国ハープスブートの大地は緑色で斜線が軽く引かれ、両国の領地にとてつもなく領土格差があることが一目瞭然となっていた。
この時点で世界有数の大国であったハープスブートを治めるカール大帝の都も描かれている。ヴィエリだ。
ボアルネハルトとハープスブートの国境沿いのボアルネハルト側が小さく紫色で囲まれて、レキュールと書かれてある。バリドン公爵領地の方が大きく豊かだが、実は貴重な資源が眠る場所でハープスブートが狙っている領地だ。私が聖女になる前はまだ貧しい辺境の地だったが、私が処刑される頃には注目されていた。
「君がヒューと確認しに行ったという灰色の空と灰色の大地は、辺境伯レキュールの領地なんだね?」
純斗が私にそう聞きながら写真をホワイトボードに貼っている。私はうなずいた。
「銀の鉱山があるわ。メーナルンド山がここにあるわ。それからダイヤモンドが採れるハンドッヒ山はここよ。レキュールではないけれど、ここもこれから大注目されるわ」
私は純斗の隣に立ち、メーナルンド山とハンドッヒ山に印をつけた。
辺境伯レキュールの土地は聖女である私が譲り受けた。正確には国王が買い取り、私に与えたものだ。私は結局あの辺境の地に家を建てるという夢を叶えずに死んだ。
寒さや疲労や空腹の感覚は、バイトをしてカツカツの生活をしている富子側だけの感覚ではない。公爵令嬢で聖女であったヴァイオレットでも数えきれないほど経験した。いろんな領地を回るのは馬車だったし、思うように宿を取ることができないこともあったのだ。
今、午後のゆったりとした時間が流れていた。私は辺境の地に思いを馳せて黙った。
大家さんの用意してくれた炭酸入りのレモネードを私と純斗は飲んでいる。純斗はこれまで顔見知り程度の仲だった。同じ大学に通っているのは知っているし、同じアパートの下の階に住んでいるのも知っていた。純斗が大学の授業の合間に仕事をしている、もしくは何かのバイトをしていることは私も知っていた。彼の帰宅は夜遅かったりしたからだ。
私がファーストフードのバイトと、異世界転生バイトの2つを掛け持ちしていることを彼は知っていた。メガネをかけている潤斗が非常に整った顔立ちをしているのに、この日初めて私は気づいた。
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