47 さようなら、マルグリッド

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 マルグリッドは反省の色も無く、池のように縁取りされた固い部分に足をかけて泥だらけの顔を出して、あられもない姿で上がってこようとしてまだ悪態をついた。 「このやろうっ!この不細工なバリドンめ!」    私はその顔をじっくりと眺めた。  ――彼女には反省の色も無いようだわ。私を殺そうと矢をあれほど射るように命じたことが本人にバレたのに。  私は腕組みをして泥だらけで顔を出したマルグリッドを見据えた。 「ね、マルグリッド伯爵令嬢、あなたは猿を知ってらっしゃる?」 「へ?あの堕ちた人間のシンボルのあの猿?」  マルグリッドは意表をつかれたらしく、キョトンとした表情をした。 「そうなの。あれでございますわ」  ――私が育った国では誰でも知っていますわ。良くない行いをしたら頭にハマった輪っかが締め付ける罰を受けた猿のお話でございますわ。  私は自分がしていた豪華な腕輪を外してマルグリッドに歩み寄った。 「手を出してくださる?泥のお詫びにこちらを差し上げますわ」  マルグリッドに逆に腕をつかまれて私が泥に落とされるのを用心しながら、私は慎重に近づいた。ドッキリ番組の見過ぎかもしれないが、彼女ならしかねない。  私はマルグリッドが差し出した右手にそっと腕輪をはめた。少し私の手にも泥がついたがそんなことはどうでもよかった。
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