132人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、私とジョセフは街中の小さなボルディ商社が国王陛下の庇護を受けてしっかりと営業できているかを確認しに出かけた。
季節は春から初夏にさしかかる頃で、エルダーフワラーがクリーム色の小花を美しく咲かせていた。ピンク色のシャクヤクの花が大輪の花を咲き誇り、真っ赤なヒナゲシの花も可憐に咲いている。
私の心は浮き立ち、一瞬自分が前回処刑された事を忘れかけていた。
サミュエルが御者を務める馬車がバリドン公爵家の広大な領地を抜けて色とりどりの花が咲き乱れる野を通っている時、ジョセフはふと私の顔を真顔で見て言った。
「とみちゃんってさ、にぶいよな」
「え?」
16歳の公爵令嬢の中に入っているのは、確かに18歳で断罪されたヴァイオレットと、20歳の富子だが、いきなりなんだろう。
「何が鈍いのかな。ヴァイオレットは確かに前回はお人好し過ぎたと思うけど」
「ふーん」
純斗ことジョセフは私の顔をじっくりと眺めた後、腕組みをしてソッポを向いた。ボルディ商社に到着するまで、ジョセフはずっと馬車の外を眺めていて、私の方を見ようともしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!