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純斗は周りの女子が騒いでいる様子にイライラとした表情を浮かべて、私を追い越して通りすぎる瞬間に小さな声でそっけなく私に言った。
後に残された私は、急ぎ足で構内を歩いて行く純斗の後ろ姿を動揺しながら見送った。
「ほらー、金髪にしたらさ、今人気出てきているあの俳優の……」
「いや、歌も上手いよ。俳優だけじゃないよね、最近……」
――え……純斗が誰ですって?それより今、私は純斗に告白された!?
私は呆然と立ち尽くした。今日の午後は必修のフランス語だ。大塚教授がフランスからまだ戻ってきていないから、臨時講師が組んだ授業だ。
私は慌てて構内を走りながら、頭の中がパニックになっていた。顔が火照る。
――純斗が私のことを好き?
数ヶ月前、毎晩のようにファーストフード店に通ってきてくれていた時期が確かにあった。純斗に声をかけられたこともある。最近は純斗は忙しいみたいで、滅多に私のバイト先には来なくなった。
――そんなの気づかない。気づかないよ……。
私は急に純斗を意識し始めて、勝手に心臓がバクバクしてきていた。
爽やかな青色が特徴のブルーサルビアがあちこちに咲いている中、薄紫色のアバガンサスの可憐な花が目に入った。花言葉は「恋の訪れ」「恋の季節」だ。
ちりめん状のピンクや白のサルスベリの花が鮮やかに咲く木陰を純斗は周囲の女の子たちにキャアキャア騒がれながら、歩いて去って行った。サインを頼まれて、仕方なく肩をすくめて断っている。
桔梗の鮮やかな紫の花が目に入った。花言葉は「永遠の愛」「変わらぬ愛」だ。花言葉を思うと、ヒューではなく、なぜか純斗の顔が頭に浮かんだ。それとレキュール辺境伯の地で迷子になり、レキュール辺境伯と夜空を見上げた夜を思い出した。エリオット・アクレサンデル・レキュールと焚き火越しに夜空を見上げた夜だ。
――永遠の愛で、なぜ彼らが頭に浮かぶの?
私はフランス語の授業に遅れる事にハッとして気づいて、また走り始めた。
「恋の季節」であることには間違いない。私は人生最大のモテ期到来なのだろうかと思った。
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