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この世にはとにかく異世界転生に激しく逝ってしまった奇妙な人たちがいる。私には理解できない。貧乏すぎて小説を読む時間もない。古い小さなアパートの家賃だってバカにならないし、光熱費と生活費と授業料を払うために毎日私は必死だ。
ショッピングモールはうちの大学の近くなので、私は声を顰めてあくまでさりげなさを装っている。この前は山手線の車両の中で「ステータスオープン」を言う羽目になった。四五十代のおじさんたちが目を輝かせて私を見るものだから、私は車両でひたすら項を垂れた。恥ずかしかった。
「今夜、君を食事にお誘いしたいのだけれど、良いだろうか?」
突然、ヒューのささやくような声がして私はハッと目をあげた。彼の目がキラキラと輝いて見えるのは、気のせいだろうか。これも演技なのだろうか。そうだとしたら彼は俳優になった方が良い。美貌に加えてこの演技力、世界を股にして活躍できるかもしれない。
「いいわ」
――授業料を稼ぐのだから、こちらもウェルカムよ。
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