49 レキュール辺境伯エリオット

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「レキュール辺境伯が、隣国のカール・ハンリヒ大帝の弟であるルノー・ガクセン・ハンリヒがマルグリッドと結託して謀反を企てていると言ってきたことがあった。でも、俺はその日頭に来ることがあって、彼の話をちゃんと聞けなかった。その後、ヴァイオレットが捕まって……」 「レキュール辺境伯?」  私はその言葉にビクッとした。たびたび頭に浮かぶあの辺境の地のことだ。  ――エリオット・アクレサンデル・レキュールの地だわ。  私は一瞬、彼の瞳を思い出した。なぜか純斗が「にぶいな」と私にそっけなく言ってきた瞬間の顔がよぎって私はカッと赤面した。 「私があなたに責められて婚約破棄されるとき、あなたはその名前を出したわ」  私は何かの胸騒ぎを感じて、ヒューに聞いた。 「君は……レキュール伯爵領で一度、帰らなかったことがあった。行方がわからなくなったんだ。その時、その……君と彼が夜を共にしていたという複数の証言があったんだ」  そうなのだ。色々言われた中に、その内容が確かにあったのだ。私の目から涙が込み上げてきた。鼻の奥がツンとして痛い。私の心の中にエリオットが助け出してくれたあの夜のことがまた蘇った。  私とエリオットは純粋な友達だったはずだ。あの地の再建計画を話し合って夜を明かした日のことを思いだした。焚き火の明かり越しに星空を見て、笑って話し合った。確かに楽しかった夜だ。でも、彼とは友達だった。  聖女でもなく、公爵令嬢でもなく、一人の18歳の女性として私はその夜そこにいたと思う。星々の明かりと焚き火の明かりの下で、私はとても幸せだと思った記憶があった。
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