54 再会と喪失 ヴァイオレットSide

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「ダメだよ、この馬車は天井が意外と低い。僕らが最初に出会ったのは、君がレキュール辺境伯爵領で迷子になった時だ。なぜか聖女の力を発揮できなかったあの夜のことだ。僕らは焚き火を囲んで、星空の元、たくさんの話をした。それから前回ヒューが婚約破棄を言い渡した時、少なくとも僕の方は君に恋をしていたんだ。あの夜からずっと僕は君に恋をしているんだ」  私は意味がわからないと頭を振った。ものすごく混乱する。彼はエリオットの話をしている。エリオットと私しか知らない話だ。でも、純斗しか分からない話もしている。 「ジョセフに耳を塞ぐように言ってくれるかな?」  純斗はまたもや私の耳元にそっとささやいた。  ――顔が近い!  ささやいた後にキスができそうなぐらいに顔が近づいていて、私の目をのぞき込んでいる。その優しい瞳に私はドギマギした。 『Lvl121の音遮断スキルを使いますか?』 「使います」  ジョセフの耳には薄ピンクのヘッドフォンが出現した。私はそのヘッドフォンの片方を少し上げて、ジョセフに言った。 「少しだけ、この素敵な音楽を聴いていてくれるかしら?」 「はい!お嬢様っ!」
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