55 トラウマ克服と恋 ヴァイオレットSide

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 頭の中はいつまでも真っ白で静かだ。パニックになりそうだ。私は馬車の中で立ち上がって天井に思いっきり頭をぶつけた。 「とみ子ー来い!!!」  両手を天井にあげて空に向かって突き上げ、ぐいっと腰まで引き下ろす仕草をして叫んだ。 「お……お嬢様っ!?」  ジョセフは動揺してあたふたしている。私の行動を目を見張って見ている。  頭の中はまだ静かだ。何も聞こえない。  目を瞑る。右手をまっすぐにあげて人差し指を立てる。左手は下に真っ直ぐに下げて、やはり人差し指を立てて地面に向けた。天井にぶつかるので私は中腰になっている。色んな人が占ってもらうテレビ番組で、占い師がご利益のある神社の前でやっていたポーズが頭に浮かんでとっさに真似をした。もう、神頼みだ。 「来い!来い!来いっ!」  叫びながら天に向かって念じる。馬車の天井が一気に吹き飛んだ。私の右手の人差し指から、ピリピリと何かが空に向かって放出されているのを感じた。  ――もう少しだ。もう少しっ!そうよ、もう少し!  竜巻のような風が巻き起こり、馬車の中に舞い込んだ。私の髪の毛は渦を巻く風になびいて乱れた。
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