55 トラウマ克服と恋 ヴァイオレットSide

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 エリオットにそっと頭を撫でられて、抱き寄せられた。温かな胸が私を包み込んで背中をトントン叩いてあやしてくれる。 「大丈夫だ、君はもうパニックで力を失ったりはしない。立派な聖女だ」  目をあげると、涙が煌めく碧い瞳が私を優しく見つめていた。そのままゆっくりと唇が近づいてきて、温かな唇が私の唇に落ちた。私たちは抱き合って口づけをかわした。うっとりするような心地だ。  胸がときめいて、未来が遥か遠くまで澄み渡って見通せるような晴れやかさがそこにあった。 「純斗……、あっエリオット」  ふっと笑みを浮かべたレキュール辺境伯は、私の顎をそっと持ち上げて、もう一度優しく口づけをした。 「俺のこと、好きになってくれたと思っていいの?」  ブロンドの髪の毛の隙間から太陽の温かい光が煌めき、エリオットの長いまつ毛はとても美しかった。 「好きよ」  私はうなずいた。どうやら私は今回は決定打を放ったようだ。  若く爽やかなレキュール辺境伯と私の間には、互いに強烈に惹かれ合う何かが確かに存在感する。  甘いトキメキと、それ以上の煌めく未来のような素晴らしい景色が遥かどこまでも続くような不思議な感覚だ。  これで、ヒュー王子にこっぴどく婚約破棄されても当然な理由が私側にできた。 「じゃあ、ラントナス朝の最後王位継承者として俺が名乗りをあげる理由ができたということだ。ハープスブートの王位につこう。本来持っていた道に戻ろう」  レキュール辺境伯エリオットは爽やかな笑みを浮かべて私を愛おしそうに見つめてささやいた。
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