56 ラスボスとは ヴァイオレットSide

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 ドレスのポケットの中にはスマホがある。ピカピカの銀とニッケルからできた50円玉もある。珍しく綺麗だったから持っていた。そのまま持ってきたようだ。  サミュエルの馬車から降りるとき、レキュール辺境伯エリオットが手を貸してくれた。私はジョセフの顔とエリオットの顔をスマホのカメラで撮った。 「ジョセフ、起きて」  気を失っていたジョセフを起こして、彼が持ってきた荷物に目をやった。 「コーヒーと、チョコレートだ。ベスからの差し入れだよ」  エリオットがそっとささやいた。純斗がジョセフの中に入って目覚めた時、1年前と大きくバリドン公爵邸の邸が変わっていることに気づいたという。私も同感だったが、頼んでいたボルディ商社が確実にコーヒー豆とカカオと砂糖を仕入れ、私が渡したレシピでチョコレートを作って各地に出店していたことには感動した。ナツメグの収穫が豊富な島も手に入れていた。  そのせいでバリドン公爵家もヒュー王子も危険な目に遭っているのではなければ良いが。ナツメグはペストを避けるとしてこの時代は大変貴重とされたものだ。ナツメグの香りをノミが嫌う。ノミを介してペスト菌は広がった。だから全く根拠の無いものでもない。  侍女のアデルの様子も1年前からすると変わっていた。恋をしているようで、どことなくウキウキとしてさらに美しくなっていた。  
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