56 ラスボスとは ヴァイオレットSide

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 今か今かと聖女の私の到着を待ちわびていたらしいモートン伯爵家では、転がるように飛び出してきたモートン伯爵邸の従者と伯爵に大歓迎された。すぐに(うまや)で馬を借りた。そして従者の案内に従ってレキュール辺境伯と一緒に馬で駆けた。  ただ、モートン伯爵はレキュール辺境伯が一緒に着いてきたことに、少し驚いた表情を浮かべていた。私はそのことを深く気に留めていなかったが、若くて魅力溢れる大人気のエリオットと私が接近しすぎる事に周りの者たちがハラハラしていたことは後で分かった。  ヒュー王子は森で狩猟中に落馬して、近くの山小屋に運ばれたという。この出来事だけは前回の人生でもあった。私とヒューが大接近した夜だった。  前には気づかなかったが、モートン伯爵領地にはポップの広大な畑が広がっていた。  ――ビールの原料のポップだわ。  私は爽快な風に髪を靡かせて馬を走らせながら、私は辺りを注意深く眺めた。  並んで一緒に馬を駆けさせているエリオットに尋ねた。 「ビール法の制定は確かまだよね?」 「ビール純粋法のこと?ビールは、麦芽、ポップ、水、酵母からのみ作られるべしという法律だよね。ヒュー王子はワインと同じくらいビールが好きだった。前回の君の死後、確か彼はその法律を定めようとして猛反発をくらっていたような記憶がある」  馬で畑の間の道を疾走しながら、私と純斗は素早く会話をした。大きな声で話しているが、従者は少し前を走っているから心配ないだろう。 「少し私が状況を変えたから、今回の人生では早まっているかもしれないわ。チョコレートの普及もコーヒーの普及も早まっている。紅茶も仕入れるようにボルディ社に伝えていたから、それも広がりが早まっているわ。砂糖やレモンを入れる方法をベスに教えていたのよ。今朝、具合の悪かったルイーズは砂糖を入れた紅茶を好んで飲んでいたわ」
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