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「だから、ヴァイオレットお嬢様に新しいスマホを買ってあげるべきだと言いましたよね?」
「あぁ、提案したが、断られたんだ。その……雇い主からそういった特別な贈り物はもらいたくないと。学費を納付して余裕が出たら自分で買うからと断られたんだ」
電話の向こうでジーニンは烈火のごとく怒っていた。
「ヴァイオレットお嬢様の居場所が見えませんっ!私の魔石にも何も映りません」
「なんだって!?」
俺はたじろいだ。そんなバカな……魔導師ジーニンに居場所が見えないなら、もっと力の強い誰かがヴァイオレットの居場所を隠していることになる。
「まずいですよっ!この世界で命を失うようなことがあってはならないのです!探してくださいっ!」
俺は魔導師ジーニンに怒鳴られて、電話を切った。
泣きたくなった。ヴァイオレットのことが心配で心配で気が狂いそうだ。またしても俺のすぐそばにいながらヴァイオレットが俺の前から消えてしまって、今まさに命の危険に晒されているかもしれない。
俺は恐怖で震えが止まらなくなった。
――ヴァイオレットに何かあったらどうしよう?
魔導師ジーニンからサミュエルの車でこちらに向かっているとラインで連絡があった。俺たちはわざわざヴァイオレットを守るためにやってきたのに、一体何をやっているのだろう。
ガクガクと膝が震えてくるのを抑え切れなかった。バリドン公爵令嬢の学生は、跡形もなく俺の目の前から暗闇に消えた。
俺はこんな夜更けに20歳の美しい女の子が消えて無事でいられると思うほど、世間知らずではない。
頼む。ヴァイオレット。どうか無事でいて欲しい。神様、俺が悪かったんだ。罰すなら俺を罰して欲しい。彼女を守って欲しい。
異世界転生なんて、どうでもいい。ひたすら彼女の無事を祈った。
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