15 死を前にして

2/9

132人が本棚に入れています
本棚に追加
/415ページ
 頭に衝撃を受けて私は倒れた。相手の足をつかんで倒して、相手の髪の毛をつかんで引っ張ってやった。足技も決めようとしたら、滑った。  ぎゃっっ!!  ずるずると山肌を滑り落ちた。体が泥に塗れた。叫んでiPadを離して両手でつかまれるものを何かつかもうと空に手を振り回してばたつき、やっとの思いで木の枝をつかんだ。藁をもつかむ思いだ。  呼吸が荒い。私の息が耳に響く。頭の上の方で雨が葉にあたる音がする。 ◆◆◆  幸い意識ははっきりとしていると思った。それなのに、目を開けると真っ暗な山の中ではなく、どこまでも続く灰色の空と大地が見えた。はるか彼方まで灰色だ。これがレキュール伯爵領だと思った。 「ここよ」  私は振り返って、馬車から降りてきたゴージャスな彼に笑いながら言っている。 「君のスキルだと、ここがそんなに素晴らしい大地になると予測できるのか。聖女のスキルはどれほどあるのだろう」  ヒューだ。私の目には彼は愛しいヒューに見えた。  美しい髪と美しい瞳と美しい鼻筋、何もかもが愛しいと思えた。ヒューはヨーロッパ貴族のような出立で、どこか洗練されて見える。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加