15 死を前にして

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 私の胸が震えて泣きたくなる。嗚咽が込み上げる。唇が震える。身を貫くような痛い思いで呼吸が乱れる。とても彼のことが好きだったのだ。これがヴァイオレットとしての感情なのだろうか。彼にフラれたのは信じがたいほど惨めで、この世の終わりのように感じた。  この時はまだヒューはヴァイオレットに婚約破棄を通告していないようだ。私を見つめる瞳は愛に溢れている。ヒューは私に聞いてきた。 「この土地で金を借りることなく、豊かな国になることができると?」  私はヒューの問いにうなずき、馬車の向こうに見える山をまっすぐに指差した。 「あれは鉱山よ。銀が採れるわ。この国を豊かにしてくれるはずよ」  いつの間にか私はヒューに抱き抱えられていた。ヒューは私を抱いてくるくるとその場で回った。私のドレスの裾が風にはためく。どこまでも続く灰色の空の下で私たちは笑い声をあげていた。  ヒューの唇が私の唇に重なり、私はそれにしっとりと応えた。  ヒューの唇が離れると、そっと小さな声で私は聞かれた。  
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