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「ヴァイオレット、お母様はあなたのそばにいますよ。空の上から見ています」
馬車の窓の外を見ながら涙をこぼしている私に、シャーロットおばさまが私を抱きしめにようにして、綺麗なハンカチで涙を拭いてくれた。
「頭の中で声が聞こえるかしら?」
おばさまは奇妙な事を聞いた、と思った。
「え?お母様の声が?」
私は考え込んだ。
「聞こえないわ。誰の声も聞こえない」
私は涙を堪えて考え込んで答えた。侍女のアデルは妙な質問をすると言った顔でシャーロットおばさまの顔を一瞬チラリと見た。私は少し冷静になって、人は死んだら大切な人の頭の中で声を伝えてくるのだろうかと思った。
頭の中はしんと静まり返っている。一度止まりかけた涙は、ますます止まらなくなって私は泣き崩れた。
10歳の春、最愛の母が亡くなった。バリドン公爵家に継母ルイーズが来るのは少し後だ。
「ポップは苦いわ」
シャーロットおばさまは春の早春に蒔かれた種から出たポップの新緑を馬車の窓から苦々しげに見つめていた。
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