131人が本棚に入れています
本棚に追加
/415ページ
ヒューのひとりごとのような声が耳元で聞こえたが、私は意識を手放した。
私は涙をこぼしたような気がしたが、そのまま真っ暗な闇に落ちて気を失った。
◆◆◆
『命を失った聖女がこんな所で力を隠して生き延びていたとは』
誰かの声がした。
「富ちゃん!」
隣の小学二年生の悠斗の声がする。まぶたの向こうが明るい。いつものアパートの部屋だ。カーテン越しの柔らかい日差しが私の頬を撫でている。優しい朝の日差しだ。目をしばたいた。ふわりと明るい光が私の周りを包んでいた。
――朝?私はまだ生きている?
「学校に遅れるよ!」
悠斗のお母さんが言っている。私と悠斗の両方に言ってくれているのだ。
私はガバッと飛び起きた。
――生きているわ!
どうやら私は生き延びたようだ。生きている!生きているのだ!
「悠斗、行ってらっしゃい!」
私は元気よく玄関の扉の向こうにいる悠斗に声をかけた。枕元の時計の針は7時50分だ。このままだと必修科目の一限に遅れそうだ。
急いで顔を洗って歯磨きをした。昨日のことは一旦置いておいて、私はリュックを持って家を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!