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私はおばあちゃんに愛想よく頷いてこの場を切り上げようとした。
その時だ。アパートの左隣に住む悠斗の妹がお母さんと一緒にアパートの部屋から出てきて、すっとんきょうな声を上げた。結菜だ。
「すごいっ!格好いー黄色いお車だぁ!」
保育園の年長である結菜は驚いたように叫び、アパートの2階の廊下の手すりから身を乗り出した。
「富ちゃん!私も乗せて!」
私は小さくため息をついた。大学の一限に本気で遅れることになりそうだ。しかし、それは何が何でも避けたい。私は苦学生だ。留年などという贅沢ができるわけがない。
「おやおや。朝からとても賑やかですね。おはようございます、ヴァイオレットお嬢様」
私はハッとして振り向いた。ボロボロのシャツにジーンズを着た魔導師ジーニンが、アパート前の駐車場で佇んでいる私のすぐ横にやってきていた。恭しく膝をついて挨拶をしている。
「待って!ここではちょっとやめて」
私はジーニンに立ち上がるように合図をして、彼の腕を引っ張り上げた瞬間のことだ。
「結菜!」
結菜のお母さんが恐怖にかられた叫び声をあげた。私はアパートの2階を見上げた。
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