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「ちょっと泣かないで。サミュエル、泣いたら涙で前が見えないでしょう。ちゃんと前を見て、もう。運転しながら泣いてはダメよ」
私はリュックの中から慌ててポケットティッシュを取り出して、サミュエルに渡した。魔導師ジーニンが結菜の滞空時間を操ったのだろうかと考えた。
――そんなわけがないでしょっ!私ったら、本当にこのバイトに入れ込み過ぎているかもしれない。そんな能力をジーニンが持っているわけがないんだから。
「聖女でいらしたお嬢様のお力が回復…………」
そこまでサミュエルが言ったところで、私はサミュエルの目にまた涙が溢れるのを目撃して、新たなティッシュを渡した。
「私の命が危ないから、運転しながら泣くのはやめてくださるかしら?公爵令嬢としてのお願いよ」
私はきつめの声でサミュエルに伝えた。
「はいっ!大変申し訳ございません」
さっきからサミュエルが何を言いたいのかさっぱり分からない。私は昨日見た夢のようなヒューと私の結婚の約束のことを突然思い出して、急に少し周りの気温が上昇したように思った。
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