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「これはこれはヴァイオレット聖女様」
必死で走っている先にヒューが待っていることに気づいた時には、私はぶつかっていた。ヒューの胸に抱き止められた状態だ。周りの学生たちがヒューの麗しい美貌を見てヒソヒソ話している。
「誰?めっちゃ格好いー」
「うわぁ素敵な人」
周りの女子学生たちの声は、ヒューにはまるで聞こえていないようだ。ヒューの胸に思い切り飛び込んでしまった形の私は、ドキドキが止まらない。これは走ってきたからだと自分に言い聞かせた。
「あの……………昨晩食事の後のことなんですが」
私は思い切ってヒューを見上げて質問をしかけた。彼の瞳が私を見下ろしていて、彼の口元があのどこまでも続く灰色の空の下で私に口付けをした口元と同じで、私は思わず黙った。キスの感覚がリアル過ぎた。
「あとでね。今は講義に遅れるんじゃない?」
今日のヒューの服装は爽やかな白シャツだ。目の前の白シャツしか私の目には入らず、彼が私の耳元でささやいた言葉で私はハッと我に返って、一目散に教室に飛び込んだ。
大塚教授はフランス語の教授であり、フランス語は私の必修科目だ。この日、なんとかギリギリセーフで私は大塚教授の講義開始時間に間に合った。
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