17 緊急事態速報 (1)

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 講義室の中はほぼ席は埋まっていた。大きく息を切らして辺りを見渡した私は、教授の目の前の席しか残っていことに気づいて、がっかり肩を落とした。私は致し方なくその席に座った。  リュックの中のスマホをのぞくと、案の定、電源が切れていた。昨日魔導師ジーニンに渡された羊皮紙がノートの間に偶然はさみこまれていた。領地の収支報告書だ。  大塚教授は出席確認もフランス語だ。私はいつものように教科書とノートを机の上に広げたが、昨日は予習をする時間が全くなかったので、ほぼ初見になる教科書のページを私は開いていた。なんとかドキドキする胸を沈めようとした。  大塚教授は白髪をお洒落なボブスタイルにカットして、小気味の良い話し方をする女性の教授だ。いつものことながら、大塚教授の講義は現実世界からかけ離れた別世界に私を引き込み、ファーストフードのバイトのことも、家賃のことも、授業料の納期のことも、異世界転生バイトのことも私の頭から見事に消えた。  いつの間にか私は大塚教授の講義に集中していた。ポンポンと教授が学生たちを素早く名指して、ちゃんと準備をしてきた学生たちはフランス語できちんと回答している。  私は自分に当たらないようにと祈るばかりだった。メモを取ろうと必死でシャープペンシルを動かす。
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