18 緊急事態速報 (2)

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 私の心は彼を抱きしめてしまいたくてたまらなかった。私はバイトの設定にのめり込み過ぎて、彼に本気で恋をしてしまいそうだ。ヴァイオレットに婚約破棄を言い渡した張本人に恋をするなんて正気の沙汰ではないが。  地球が滅亡するなんてきっと嘘だ。  緊急事態速報はきっと間違えているのだ。こんなに美しい色鮮やかな何もかもが消えてしまうなんて。爽やかな青色が特徴のブルーサルビアの花を見つめながら、私は頭を振った。  フードコートは閑散としていた。  わずかな人がソファ席にポツンポツンと座っている。中には泣いている人もいる。想像を超えた悲劇的なことが起きると、人は家に帰るものだろう。私は実家に帰る気はなかった。実の父はもういないし、血のつながりがある妹はいるものの、妹には継母がいる。  帰りたい家はないが、少なくとも、私には今日この日を共に過ごす人はいてくれるようだ。私を聖女で公爵令嬢と一心に信じ込む魔導師ジーニンと元婚約者だ。異世界転生バイトなどという変わった趣味を持つ彼らは、私の雇い主だ。彼らは今日のようや悲劇的な日であっても、私と共に転生設定で生きる覚悟のようだった。
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