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私は本当によるよろと魂が抜けたように力尽きた風情で、取材は無意味だと訴えた。でも、報道陣は面白おかしく描きたいので引き下がらない。
「冤罪ですよっ!?」
私はちょっとやばい人を演じることにした。この際仕方がない。言葉のチョイスは完全に間違えているが、そうでもしないと『この人ちょっとやばい人かも』というのは伝わらないものだ。
「なんにも関係ないと言っているでしょう。それなのにあなたたちはアパートに押しかけてきて騒がしくしている。訴えます!」
私はたんかを切ってヤバさを全面に押し出した、つもりだ。その時、私の援軍が現れた。大学生の純斗が隣にすっと立ち、「なんも見えなかったっすよ」と話し始めた。
カメラは一斉に大学生純斗に向かい、純斗は普通の大学生といった自然さで「顔出したらダメですよ」と報道陣に釘を刺して、自分たちアパートの住人は何も見ていないし、騒がれる意味が分からないと訴えた。マスクをしていて、新たな度が強いメガネをかけて純斗はもはや分からないぐらいに変装をしていた。
純斗の振る舞いは功を奏したようだ。
脇道からスマホを掲げて私を撮っている近所の中学生らしき子を見つけて、私はツカツカと歩み寄り、腕組みして彼を睨んだ。
「撮るのをやめな」
「聖女になった御気分は「っなわけないでしょっ!!!」」
私は中学生を一喝した。中学生は私の剣幕に恐れをなして逃げるように帰って行った。
後ろを振り返ると、純斗の隣にサラリーマンの佐々木さんとおばあちゃんも立って、皆で報道陣に否定していた。
私はその様子をアパートの自分の部屋に戻りながら、ぼぉっと見ていた。
今日は変な日だ。
頭の中で聞こえるスキルに関する声は、確かに私を助けてくれる。
ならば、私は本当に聖女となる。
――は?私が聖女!?
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