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再起不能レベルに私のハートをズタボロに傷つけたのは美貌の王子。その人が目の前にいて、私を探しにはるばるやって来たと言う。
山の中で一瞬よぎったように、私は彼にずっと心底憧れていて何もかも大好きだったはずだ。彼は私をバッサリ振った。今更……思い出したら辛くなる。
ある意味、最悪の元婚約者との再会だ。
「この世界のワインは美味しいです」
そう言って嬉しそうに微笑む魔導師ジーニンを私はぼーっと見つめた。彼は凛々しい顔立ちをしている。頬を珍しく上気させている。皆でお祝いのためにお酒を飲んでいるのだ。魔導師ジーニンとヒューとサミュエルは私の記憶が戻り始めたことと、スキルを発動できるようになった事を祝っているのだ。
そんなバカなと言いたいが、状況としてはそういう状況だ。
3人は涙を浮かべて互いに抱きつかんばかりに祝っていた。私はそんな3人をぼーっと見つめるばかりだ。どこの世界に自分が断罪されて処刑された聖女だと判明して嬉しい人がいるのだろう。
いないと思う。
「つまり、本当だったということね」
私がつぶやくと、3人が一斉に「そう!」「そうです!」「そうでございます!」と目を輝かせて肯定した。
「シャーロットおばさまも、モートン伯爵も全部実在の人物だということね」
私は落ち込んだ。自分が婚約破棄されて断罪されて処刑されたなんて悲しすぎた。
「君を嵌めた犯人を特定するんだ。そして次こそ君は何が何でも生き残るんだ」
ヒューは私の目の前に置かれたワインをグッとあおり、私の目を見つめて言った。私はヒューの隣に座っている魔導師ジーニンの表情を確認した。
――2人とも本気のようだ。
――バイトじゃなくて、そっちかぁ。私がそっち側の人間だったとわね。
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