20 祝杯と過去の世界に

3/8
前へ
/415ページ
次へ
 ため息が出る。これではまるで私が異世界転生に取り憑かれて逝ってしまわれた方のようだ。ミイラ取りがミイラになったような感じだろうか。  私は全神経を集中させて、私の頭の中の記憶を思い出そうとした。 「他の記憶はまだ全ては戻っていないの。断片的な記憶しかないのよ。だから、実感があまりわかないのよ」  聖女でバリドン公爵家の長女だったというけれど、他の記憶も思い出そうとしてもさっぱり思い出せなかった。私はふーっとため息をついた。 「ダメよ。時々頭に蘇る記憶は確かにあるわ。でも、思い出そうとして思い出せる新たな記憶はないの。前世の記憶を思い出すのに聖女の力は使えないのね」  私は正直に二人に言った。  魔導師ジーニンとヒューは優しく私に微笑んだ。 「ヴァイオレット様は、記憶を取り戻し始めました。しかも、聖女の力も回復傾向にあり、日に日に力は増していらっしゃいますから時間の問題だと思います」  ボロボロのシャツにジーンズの魔導師ジーニンは私に力強くうなずいた。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加