20 祝杯と過去の世界に

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「そうだ、僕らが君を見つけた時は、君は何の力もなく僕らが話すことを何も覚えていなかった。でも君は少しずつ記憶が蘇ってきている。心配ない。そのうち一気に思い出すよ」  ヒューも私の手を握り、瞳を輝かせて私に熱弁を奮った。ヒューはやはり恋愛詐欺師じゃないのかと、私はこの時も思った。ただ、ヒューの次の言葉を聞いて私の体は固まった。 「だから……君は戻ってやり直せると思う」  ――戻るってどこに?やり直す……? 「魔導師と聖女の力を使ってヴァイオレット様を前の人生に戻すことができます。元の人生にお戻りになり、処刑されないようにやり直していただけますか。戻ってヴァイオレット様を陥れた犯人を特定し、逆にその者を処分してください。とにかく、ヴァイオレット様が生き延びることができる運命に変えるのです」  魔導師ジーニンの言葉に、ヒューの隣に座っていたサミュエルも私を見つめてうなずいた。 「ちょっと待って。いきなり前世に戻るのはどうかと思うわ。だってその前世では私は騙されて裏切られて処刑されたんでしょう?そんな人生にもう一度戻りたくない」  ――前世に戻りたい理由なんてない。
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