21 聖女降臨 完全覚醒 ヴィオレットSide

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 昨日まで使えた力が使えない。最愛の人に裏切られた心の痛みで私はどうにかなってしまったようだ。私は地下牢に閉じ込められた聖女。壁の高いところに地上の光が差し込む窓がある。鉄格子がはまっている。そこに小さな緑色の鳥が姿を現した。  なぜか、今は擬態のスキルが使えない。私はうずくまり、ただ小さな美しい鳥を眺めるだけだ。  聖女は人を貶めるためには力が使えない。でも、自分の身を守るためには力を使えたはずなのに、ヒューの顔が心に浮かぶたびに涙が込み上げてきてやるせなさと無力感で私の心は乱れて、本来あったはずのスキルがまるで使えなくなった。  ヒューは私の恋人だった。この国の王子だ。彼から愛を告白されて結婚の約束をした。私たちの出会いは聖女と王子として出会った。各地を馬車で周り、その地にあった民を豊かに幸せにする方法を話し合った。  どこまでも続く灰色の空と灰色の大地。地平線まで続く灰色を見つめながら、私はその地の活かし方を聖女として王子であるヒューに提案した。そして抱きしめられて愛を囁かれた。
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