21 聖女降臨 完全覚醒 ヴィオレットSide

3/11
前へ
/415ページ
次へ
 ◆◆◆ 「ここよ」  私は振り返って、馬車から降りてきたゴージャスな彼に笑いながら言っている。 「君のスキルだと、ここがそんなに素晴らしい大地になると予測できるのか。聖女のスキルはどれほどあるのだろう」  ヒューだ。私の目には彼は愛しいヒューに見えた。  美しい髪と美しい瞳と美しい鼻筋、何もかもが愛しいと思えた。  思い出の中でヒューの顔を思い出すと、私の胸が震えて泣きたくなる。嗚咽が込み上げる。唇が震える。身を貫くような痛い思いで呼吸が乱れる。とても彼のことが好きだったのだ。彼にフラれて裏切られたのは信じがたいほど惨めで、この世の終わりのように感じた。  この時はヒューの私を見つめる瞳は愛に溢れていた。 「この土地で金を借りることなく、豊かな国になることができると?」  私はヒューの問いにうなずき、馬車の向こうに見える山をまっすぐに指差した。 「あれは鉱山よ。銀が採れるわ。この国を豊かにしてくれるはずよ」  いつの間にか私はヒューに抱き抱えられていた。ヒューは私を抱いてくるくるとその場で回った。私のドレスの裾が風にはためく。どこまでも続く灰色の空の下で私たちは笑い声をあげていた。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加